戦略

TCFD提言の「戦略」では、気候関連のリスクと機会が事業、戦略、財務計画に及ぼす実際の影響と潜在的な影響についての開示が推奨されており、当社グループはこれに沿った情報開示を進めています。

気候関連のリスクについての認識

当社グループでは、気候変動シナリオに基づく定性分析を行い、事業、財政状態および経営成績に負の影響(悪影響)を与える可能性があるリスクの例を整理し(図表3-1)、サステナビリティ推進委員会での議論を経て、執行役会および取締役会での報告および審議を行っています。なお、正の影響を与える可能性がある機会の例については、「気候関連の機会についての認識」(図表3-2)を、かかる分析に用いた想定シナリオ等については「気候関連のリスクを踏まえた戦略のレジリエンス評価」をご参照ください。

気候関連のリスクは、脱炭素社会への移行に伴うリスク(移行リスク)と物理的な被害に起因するリスク(物理的リスク)に大別されます。前者にはカーボンプライシングやエネルギー政策などの法律や規制の導入・変更(政策・法規制)、急速な技術革新による社会・産業の変化(技術)、企業の事業環境の変化や製品および資産等の価格変動(市場)、気候変動対策に関する企業・組織に対する評判の低下(評判)などがあります。また、後者には異常高温等よる健康被害(慢性)や豪雨・巨大台風などの災害(急性)などがあります。

移行リスク

当社グループの主な移行リスクの例として、気候変動対策としてのカーボンプライシング強化等に伴う経済・企業業績の悪化による多様な収益機会の減少(政策・法規制)、エネルギー関連の技術革新等に伴う投資先企業の業績悪化による保有資産の価値低下(技術)、移行期に有意な影響を受ける業種における引受業務の減少や、産業構造の変化への対応の遅れによる自社保有資産の価値低下(市場)、気候変動対策の取組み不足や環境負荷の高い事業に係る投資・引受に伴う当社グループの評判悪化と広範なビジネス機会の減少(評判)などが挙げられます。

物理的リスク

当社グループの主な物理的リスクの例として、異常高温等による健康被害を受けた従業員に係る就労・事業遂行の制約(慢性)、豪雨・巨大台風の増加による太陽光/風力発電設備の発電効率悪化、および各事業拠点等の被災(急性)などが挙げられます。

なお、リスクと機会の時間軸については、当社グループの経営計画との整合性に鑑みて定義しています。具体的には、短期は中期経営計画が3年であること、中期は2030年が「2030Vision」の目標年であり、自社のGHG排出量ネットゼロを目標としていること、長期は2050年に投融資ポートフォリオ等のGHG排出量ネットゼロを目標としていることを勘案し、短期が3~5年、中期が5~10年、長期が10~30年を想定しています。

図表3-1 気候関連のリスクの例

種類 気候関連のリスク 当社グループに及ぼす主な影響 時間軸 想定される主な
リスクカテゴリー
移行
リスク
政策・
法規制
気候変動対策としてのカーボンプライシング強化

気候変動を考慮した金融政策
  • 経済や企業業績の悪化による多様な収益機会の減少
  • 金利変動の不確実性増大を通じた、企業の資金調達ニーズの変化によるビジネス機会の減少
  • 当社グループ、投資先企業のカーボンプライシングによるコストの増加
短~長期 市場リスク
信用リスク
技術 エネルギー関連等の技術革新、転換
  • 投資先企業の対応遅れや業績悪化による、当社グループの保有資産の価値低下、ビジネス機会の減少
中~長期 信用リスク
市場 経済、産業構造の変化、移行

資産価格の変動
  • 移行期に有意な影響を受ける業種における引受業務やその他ビジネス機会の減少
  • ファンド保有資産の価値低下、残高減少
  • 当社グループの保有資産や物件の価値低下、売却機会の減少
短~長期 市場リスク
信用リスク
評判 気候変動対策に関する企業の評価
  • 気候変動対策の取組み不足や、環境負荷の高い事業に係る投資・引受に伴う、当社グループの評判悪化
  • 上記評判悪化による、ビジネス機会の減少、および資金調達コスト増加
短~長期 レピュテーショナルリスク
流動性リスク
物理的
リスク
急性/
慢性
(継続的)気温上昇、豪雨、災害増加等

(一時的、局所的)豪雨、巨大台風、水害、異常高温等
  • 猛暑等によるお客様および当社グループ社員の健康被害の増加、就労の制約、およびビジネス機会の減少
  • 豪雨・巨大台風の増加による太陽光/風力発電設備の発電効率悪化
  • 水害等による投資先の被害・設備劣化、および復旧費用の増加
  • 当社グループの各事業拠点、データセンター等の重要拠点の被災、復旧、修繕費用の増加
中~長期/短~長期 オペリスク
信用リスク

気候関連の機会についての認識

政府の「GX実現に向けた基本方針」では、脱炭素社会の実現に向けて、今後10年間で官民のブレンデッド・ファイナンス※1を含む150兆円超のグリーントランスフォーメーション(GX※2)投資の実現が掲げられています。当社グループにとって、金融機関としてGX投資に関するプロダクト設計、ストラクチャリングおよび運営支援を行うところに、当社グループの事業機会があると考えています。当社グループでは、かかる観点から、気候変動シナリオに基づく定性分析を行い、当社グループの事業、経営に正の影響を与える可能性がある機会の例を事業部門ごとに挙げています(図表3-2)。

  • ※1公的資金と民間資金を組み合わせた金融手法
  • ※2GHG排出削減と産業競争力の向上の実現に向けた、経済社会システム全体の変革

図表3-2 事業部門別にみた気候関連の機会の例(事業部門別)

気候関連の機会 事業部門の例 時間軸
お客様のサステナビリティへの関心の高まりにより、SDGs/ESG関連の新たな金融商品の提供機会増加 リテール部門 短~長期
グリーンプロジェクトおよび脱炭素社会への移行に要する資金調達などの引受増加 ホールセール部門 短~長期
再生可能エネルギーなど脱炭素分野のM&Aの増加 ホールセール部門 短~長期
気候変動へのインパクトを考慮した投資信託や気候変動対応に積極的な企業を組入れた投資信託への資金流入 アセット・マネジメント部門 短~長期
環境性能の高い不動産・実物資産を裏付け資産とする投資法人・私募ファンドの組成・運用 アセット・マネジメント部門 短~長期
脱炭素社会への移行に貢献する新産業・企業への投資機会の拡大 投資部門 中~長期
太陽光発電所など再生可能エネルギーへの投資と外部資本の導入を通じた投資機会の拡大 投資部門 短~長期
脱炭素社会への移行を支援するソリューションビジネス機会の拡大 シンクタンク 短~長期
ネットゼロに向けた取組みを通じたレピュテーション向上による事業機会の拡大 グループ全体 短~長期

リテール部門

リテール部門においては、お客様のサステナビリティへの関心の高まりにより、SDGs/ESG関連の新たな金融商品の提供機会の増加が期待できることから、同分野に一定の事業機会があると認識しています。

ホールセール部門

国内外においてグリーンプロジェクトに要する資金調達(グリーンファイナンス)の市場は急拡大しています。また、GHG排出量の多排出セクターであっても、脱炭素への移行や技術イノベーションに積極的に取り組む企業が増えており、トランジション・ファイナンスのニーズも高まっています。特に、グリーンファイナンスの資金需要には限りがある一方、移行のためのトランジション・ファイナンスは発行体が脱炭素を進めていくための資金調達であることから、潜在的なニーズは非常に大きいものと考えられます。

このため、ホールセール部門では、グリーンプロジェクトに要する資金調達および低炭素社会への移行を目指した中核事業のグリーン化に要する資金調達などの引受に事業機会があると認識しています。

その他、脱炭素を掲げる企業による事業ポートフォリオの再構築が見込まれるなか、再エネなどサステナビリティ分野のM&Aをはじめとする組織再編や事業統合のニーズが高まっており、再エネ分野のM&Aに事業機会があると認識しています。

アセット・マネジメント部門

アセット・マネジメント部門(証券アセットマネジメント)においては、広範なセクターにエクスポージャーがあるため、各種リスクに対して運用資産全体がプラスにもマイナスにも影響を受ける可能性があります。一方、個別でみると、気候変動問題への社会的な意識が高まる中、投資家における関心も高まっており、気候変動へのインパクトを考慮した投資信託の提供等に事業機会があると認識しています。

アセット・マネジメント部門(不動産アセット・マネジメント)においては、サステナビリティに配慮した金融商品に対する投資家の投資ニーズが高まっていることから、環境性能の高い不動産・実物資産を裏付け資産とする投資法人・私募ファンドの組成・運用に事業機会があると認識しています。

投資部門

投資部門においては、太陽光発電所など再エネへの投資、脱炭素社会への移行に貢献する新産業・企業(特に再エネ分野)への投資(国内・海外)、および関連アセットへの投資ニーズのある投資家に向けたファンド組成・運営に事業機会があると認識しています。

その他(シンクタンクなど)

大和総研では、リサーチ・コンサルティング業務において、脱炭素社会の実現に向け、移行を支援するソリューションビジネスの機会が今後拡大するものと認識しています。

この他にグループ全体として、ネットゼロに向けた取組みを通じてレピュテーションが向上することにより、事業機会の拡大につながるものと認識しています(「カーボンニュートラル実現に向けた移行計画」参照)。

気候変動に関連して推進する戦略的な取組み

各事業部門で特定した気候関連のリスク(特に移行リスク)と機会の対応策として、下記の取組みを推進していきます(図表3-3)。

物理的リスクへの対応策は、異常気象、風水害などによる社会インフラの停止によって本店や支店、データセンターが被災し機能できなくなった場合を想定し、証券市場の機能維持とお客様の経済活動維持の観点から重要な業務を優先して再開・継続させることを目的として、事業継続計画(BCP)を策定しています。これにより、本社機能等が停止することがあっても、重要業務を継続できる体制を構築しています。

移行リスクへの対応は、以下に示すものがあります。特徴に応じて関係の深い部門はそれぞれ変化しますが、これらを着実に実行することは、気候変動対策に積極的な企業としての評判を高め、広範な事業に副次的にプラスの効果を及ぼすと考えられます。

図表3-3 気候関連の対応策(戦略的な取組み)

気候関連の対応策(戦略的な取組み) 事業部門の例
脱炭素社会実現に資する商品・サービスの開発・提供 リテール部門
アセット・マネジメント部門
サステナブルファイナンスの推進・強化 ホールセール部門
サステナビリティ分野のM&Aアドバイザリー強化 ホールセール部門
サステナビリティを意識したソーシング・投資推進 投資部門
サステナビリティ関連のソリューション提供 シンクタンク
カーボンニュートラルの実現 グループ全体
ステークホルダーとのエンゲージメント強化 グループ全体

脱炭素社会実現に資する商品・サービスの開発・提供

リテール部門やアセット・マネジメント部門で示された機会(気候要因考慮の投資信託)を踏まえ、当社グループは脱炭素社会の実現に資する商品・サービスの開発・提供をさらに強化していきます。脱炭素社会の実現に向けたソリューションを提供する企業に投資するファンドや、社会課題解決に関連したファンドおよびETFの拡充に注力していきます。

これらの取組みは、「2030Vision」の重点分野「グリーン&ソーシャル」における、重点課題「持続可能な社会の実現に資する新たな金融商品・サービスの開発・提供」にも整合的な取組みとなっています。

アセット・マネジメント部門に属する大和アセットマネジメントでは、脱炭素社会実現に貢献するソリューション企業に厳選投資を行い、ファンドとしてのカーボンゼロを目指す商品「脱炭素テクノロジー株式ファンド(愛称:カーボンZERO)」を開発・提供しています。この取組みが評価され、東京都主催「東京金融賞20201」の「ESG投資部門 グリーンファイナンス知事特別賞」を受賞しました。

  • 投資先の企業が排出するCO2を算出し、排出されたCO2を吸収できるグリーンプロジェクトに資金拠出することで、ファンド全体としてカーボンゼロを目指す

サステナブルファイナンスの推進・強化

ホールセール部門における機会(グリーンプロジェクトおよび移行に係る引受)などを踏まえ、当社グループは今後もサステナブルファイナンスの推進・強化に取り組んでいきます。

本取組みは、「2030Vision」の重点分野「グリーン&ソーシャル」における重点課題「脱炭素社会の実現を支援するグリーンファイナンス/トランジション・ファイナンスの促進」に加えて、移行計画に示す「大和証券グループ カーボンニュートラル宣言」における「金融ビジネスを通じた脱炭素社会へのスムーズな移行の支援」とも整合的な取組みとなっています(「カーボンニュートラル実現に向けた移行計画」参照)。

この他、大和証券のエクイティ調査部ESGリサーチ課においては、機関投資家向けにESGに関する調査・分析を行っており、今後も幅広い情報発信に注力していきます。

大和証券では従来よりサステナブルファイナンスにいち早く取り組んでおり、2008年には個人向けに、国内初のインパクトインベストメント債券「ワクチン債」を販売しました。国内外の基準整備にも取り組んでおり、2017年・2020年には環境省のグリーンボンドガイドラインの検討会メンバーを務めた他、2020年には国際資本市場協会(ICMA)のアドバイザリー・カウンシルに、アジア引受業者として唯一選定されています。

また、2020年10月にサステナブルファイナンスの専門チーム(現 サステナビリティ・ソリューション推進部)を設置し、デット・エクイティ等のプロダクトの区分を超え、投資家や発行体のニーズに沿ったサステナビリティ関連のソリューションを提供しています。

実績の一例として、2022年2月に、日本航空による航空業界で世界初となるトランジションボンドにおいて、事務主幹事および発行支援を行なうストラクチャリング・エージェントを務めています。また外債においては、2021年度にハンガリーのグリーンボンドの事務主幹事なども務め、フレームワーク策定やセカンドパーティ・オピニオン取得などを支援しました。さらに、エクイティファイナンスに関しても、環境ソリューションを提供するフルハシEPOのSDGs-IPOの主幹事証券を務めています。

この他、投資家(機関投資家、個人投資家)向けとして、ESG情報提供等も行うなど、リサーチ面のサポート体制を強化していくほか、脱炭素に取り組む企業情報の提供などを通じてブローカー業務の機会創出にも取り組んでいきます。

なお、当社グループでM&Aアドバイザリーサービスを提供するDC Advisoryでは、下記のようなエンゲージメントを実施しています。

図表3-4 DC Advisoryによるエンゲージメント事例

実施先 概要
A社(ユーティリティ) 同社は、住宅や商業施設にガスや電気を提供するマルチユーティリティネットワークの設計・構築事業を営んでいます。DC Advisoryは、サステナビリティ・リンク・ローンパッケージに絡んだファイナンスに関して支援しています。
B社(リース) 同社は、鉄道車両やタンクコンテナのリース事業を営んでいます。DC Advisoryは、同社を買収するインフラストラクチャ投資家のコンソーシアムを支援しました。経営陣とサステナリティクスと協力し、グリーンファイナンスフレームワークを導入しています。
C社(リース) 同社は、鉄道車両の調達・リース事業を営んでいます。DC AdvisoryはESG情報誓約(借り手が作成する年次レポート)の導入を支援しました。
D社(保管) 同社は、主要な戦略的ハブで液体バルク (ガソリン/ディーゼル/バイオ燃料) の中間保管を行うプロバイダー企業です。DC Advisoryは、欧州と北米の銀行からのサステナビリティ・リンク・ローンでの資金調達を支援しています。
E社(保管) エネルギーおよび化学薬品の保管を手掛ける同社は、持続可能な保管ソリューションを提供することにフォーカスしており、エネルギー効率と再生可能技術の開発と投資を継続的に行っています。DC Advisoryは、サステナビリティ・リンク・ローンを含む銀行借入による資金調達について同社に助言しています。

サステナビリティ分野のM&Aアドバイザリー強化

ホールセール部門における機会(再エネ分野のM&A)などに関し、当社グループではサステナビリティ分野のM&Aアドバイザリーを一層強化していきます。

当社グループは2019年10月に再エネ分野に特化したアドバイザリー事業を行うGreen Giraffe Advisory B.V.に50%出資しており、2021年2月にはタイの9Basil Co., Ltd.等との合弁会社DC Advisory (Thailand) Co., Ltd.を設立するなど、グローバルM&Aのネットワークを強化しています(図表3-5)。今後、当該分野におけるお客様のM&A支援を通じ、脱炭素社会の実現に貢献していきます。

図表3-5 グローバルM&Aネットワークの強化

図表3-5 グローバルM&Aネットワークの強化

サステナビリティを意識したソーシング・投資推進

主に投資部門におけるリスク(マクロ経済悪化による市場低迷・売却機会の減少)と機会(再エネへの投資等)等を踏まえ、当社グループでは、再エネ分野等を中心とするサステナビリティを意識したソーシング・投資を一層推進していきます。

当社グループは2018年7月に大和エナジー・インフラを設立し、日本のみならずグローバルに再エネおよびインフラ分野での投資を拡大しています。2019年12月には、再エネ事業を開発・運用するドイツのAquila Capital Holding GmbHとの戦略的提携を行い(2020年に持分法適用関連会社へ移行)、欧州市場においても太陽光発電やインフラアセットへの投資を加速しています。

また、2021年9月、大和エナジー・インフラの投融資機能とアセット・マネジメント部門の一つである大和リアル・エステート・アセット・マネジメントのインフラアセット・マネジメント機能を活用し、太陽光私募コアファンド「DSREFコア・アマテラス投資事業有限責任組合」を組成しました。今後も、このようなポートフォリオのファンド化を通じ、自社のみならず、外部投資家にも気候変動問題に取り組む機会を提供することで、資産規模拡大を推進していきます。

サステナビリティ関連のソリューション提供

大和総研によるリサーチ・コンサルティング業務において、サステナビリティ関連のソリューション提供をさらに強化していきます。これは同部門の機会(移行支援ソリューションビジネスの拡大)を受けた取組みです。具体的には、気候変動による経済・社会への影響に関する情報発信や政策提言、TCFD対応をはじめ気候関連リスクに対する経営戦略の立案やプロジェクト支援などのコンサルティングを強化し、お客様の企業価値の向上に繋げていきます。

カーボンニュートラルの実現

当社グループにおけるレピュテーショナルリスクを踏まえ、GHG排出量ネットゼロの実現を推進します。詳細は、「カーボンニュートラル実現に向けた移行計画」をご参照ください。

ステークホルダーとのエンゲージメント強化

当社グループでは、お客様の脱炭素への移行を金融面で支援するため、発行体や投資家をはじめとするステークホルダーの皆様とのエンゲージメント(建設的な対話)を強化しています。例えば、「環境・社会関連ポリシーフレームワーク」を基に、環境や社会に対して多大な負の影響を与える可能性がある事業に関するリスクを認識した上で、投融資先等とのエンゲージメント等を通じた適切な対応に取り組んでいます。

カーボンニュートラル実現に向けた移行計画

当社グループは「大和証券グループ カーボンニュートラル宣言」と同時に、その実現に向けたロードマップを公表し、カーボンニュートラル実現に向けた取組みを進めています(図表3-6)。

図表3-6 カーボンニュートラル実現に向けたロードマップ

図表3-6 カーボンニュートラル実現に向けたロードマップ

図表3-7 自社のGHG排出量(Scope1・2)の推移

図表3-7 自社のGHG排出量(Scope1・2)の推移
  • 自社のGHG排出量(国内+海外)は、従業員ベースで約95%の拠点について集計。

自社のGHG排出量(Scope1・2)ネットゼロ

自社(Scope1・2)のネットゼロ推進については、2030年までのカーボンニュートラルに向けて、重点方針「自社の環境負荷低減」に沿って推進します(図表1-3)。具体的な取組みとしては、省エネ活動の継続および再エネ電力の導入等を進めていきます(図表3-8)。

図表3-8 自社のGHG排出量(Scope1・2)ネットゼロ推進に向けた取組み例

項目 2022年度までの取組み例 今後の取組み例
省エネ活動
  • エネルギー利用の効率化
    • -設備の切替(空調、照明のLED化)
    • -オペレーションの見直し 等
  • エネルギー利用の効率化につき、継続的に実施
再エネ電力の導入
  • 国内自社契約電力につき、トラッキング付非化石証書の活用による再エネ化
  • 国内賃貸物件や海外拠点等の他社契約電力につき、オーナーへ再エネ電力への切り替えを働きかけ
  • カーボンオフセットの活用
    • -排出権取引 等

省エネ活動については、現状、各施設における省エネ技術/システムの導入やエネルギー利用の効率化などを行ってきています。今後もこれらについて継続的に実施していきます。

また、再エネ電力の導入については、2021年4月より本社ビル(グラントウキョウノースタワー)に入居する全てのグループ会社において、トラッキング付非化石証書を活用することで再エネ化しており、同年7月より同証書のトラッキング先をグループ傘下の大和エナジー・インフラが所有する再エネ発電設備由来へ切り替えています(図表3-9)。さらに、2022年10月より、大和証券の一部の支店および大和総研メインデータセンターにおいても再エネ化を行っています。2023年度中には、全ての国内自社物件について再エネ電力への切り替えを実施予定です。

さらに将来的には、関係者間での調整が必要な賃借物件や海外拠点の再エネ電力への切り替え、カーボンオフセットの活用について検討を進めることで、2030年までに自社のGHG排出量(Scope1・2)ネットゼロ達成を目指します。

図表3-9 本社ビルにおいて大和エナジー・インフラ所有発電設備の再エネ電力を活用

図表3-9 本社ビルにおいて大和エナジー・インフラ所有発電設備の再エネ電力を活用

なお、当社はオフィス等に導入する再エネの電力メニューを選定する際に、GHG排出量の削減効果だけではなく、インターナル・カーボン・プライシング(ICP/内部炭素価格)を活用することでその判断材料にしています。具体的には、Jクレジット価格をもとに算定した、ICP導入により将来想定される費用と、再エネ導入による追加費用の比較を行っています。算定にあたっては、電力会社から取得した、再エネ導入により想定されるGHG削減量に関するデータを用いており、このような形でICPを活用することで、再エネ導入による追加コストの妥当性判断に活かしています。

この他、2021年には、大和証券に排出権取引を専門に行う部署を新設し、日本の排出権市場拡大を見据えて、市場調査と体制整備を進めています。

また、2023年4月には、経済産業省が主導するGXリーグに参画しています。同リーグでは、表明参画企業が自らの排出量削減に向けた取組みだけでなく、サプライチェーンや市民社会など幅広い主体と協働し、脱炭素社会実現に向けた市場設計を先導する役割が期待されます。当社グループは、同リーグで求められる、国内拠点における自社のGHG排出量(Scope1・2)の削減目標の設定、実績報告、削減実績に応じた排出量取引、およびそれらの公表に対応します。それらに加えて、カーボン・クレジットに関するWGでの議論を通じた同分野のルールメイキングへの参画、参画企業間の対話・交流の場を通じたビジネス機会の捕捉、ならびに日本における本格的な排出量取引の導入に備えた知見の蓄積を行っていきます。

投融資ポートフォリオのGHG排出量等(Scope3)ネットゼロ

Financed Emissions

脱炭素社会の実現に向け、自社の排出量だけでなくサプライチェーン全体での排出量の管理・削減が求められており、特に金融機関にとっては、投融資ポートフォリオのGHG排出量(Scope3 Category15、Financed Emissions)の管理が重要です。当社グループは、重点方針「パリ協定と整合的な目標設定と透明性のある情報開示」に沿って、目標設定や情報開示を推進していきます(図表1-3)。

Financed Emissionsの削減に向けた具体的なプロセスとして、①優先アセットクラス、優先セクターの特定、②セクター特性の分析・分析データの収集、③排出量の計測、グループ内管理手法の検討、④SBT(Science Based Targets)等を活用した中間目標の設定・開示などから着手し、⑤目標の達成に向けた戦略策定・エンゲージメントの推進・強化を進めていきます(図表3-10)。

図表3-10 Financed Emissionsの削減に向けたモニタリングのイメージ

図表3-10 Financed Emissionsの削減に向けたモニタリングのイメージ

2021年度のFinanced Emissionsの計測では、対象アセットクラスは、上場株式、事業債、コーポレートローン、非上場株式、商業用不動産、プロジェクトファイナンスとしました。また、対象セクターは、発電(電力)、鉄鋼、石油・ガス、自動車製造、石炭採掘、運輸としています。2022年度の計測に際しては、対象アセットクラスにソブリン債を追加し、対象セクターには農業、アルミニウム、セメント、不動産を追加しました。Financed Emissionsの管理手法については、グループ横断のモニタリング体制を整備しています(図表3-11)。

図表3-11 グループ横断のFinanced Emissionsモニタリング体制

図表3-11 グループ横断のFinanced Emissionsモニタリング体制

2021年12月にGHG排出量計測・開示に関するイニシアティブ「Partnership for Carbon Accounting Financials(以下、PCAF)」および「PCAF Japan coalition」に加盟し、上記体制の下、PCAFの知見やデータベースを活用しながら検討を進めています。中間目標については、2023年度中にSBT等を活⽤したパリ協定と整合的な⽬標を設定・開示する予定です。合わせて今後、Financed Emissions の削減に向けて、投融資先に対するエンゲージメントを通じた脱炭素化支援や、国際イニシアティブ・当局等と連携しながら、その計測・開示におけるルールメイキングに参画していきます。

詳細は、「投融資ポートフォリオのGHG排出量の計測アプローチ」をご参照ください。

Facilitated Emissions

上記に加えて、当社グループの主要業務である引受などの資本市場業務に関するGHG排出量(Facilitated Emissions)についても国際的に議論が行われており、動向を注視しています。具体的には、PCAFが2023年に当該計測手法についてガイダンスを公表予定です。また、Financed EmissionsとFacilitated Emissionsは別建てで開示すべきとされています。一方で、2023年6月にISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が公表したIFRSサステナビリティ開示基準においては、方法論がまだ十分に成熟していないことを理由としてFacilitated Emissionsを開示の対象外としている状況です。

当社グループとしては、Facilitated Emissionsの計測は、資本市場業務のポートフォリオを把握し関連ビジネスリスクを管理する観点から重要であると考えており、まずは計測に係る対応につき関連部署と協議を進めています。

大和証券においては、脱炭素技術を持つスタートアップ企業の資金調達支援やトランジション・ファイナンスの推進等、資本市場業務を通じた脱炭素社会への貢献に注力しており、引き続き取組みを強化していきます。

金融ビジネスを通じた脱炭素社会へのスムーズな移行の支援

総合証券グループとして、金融ビジネスを通じたお客様の脱炭素化に向けた取組みへの支援にも引き続き取り組んでいます。(詳細は、「気候変動に関連して推進する戦略的な取組み」をご参照ください)。

気候関連のリスクを踏まえた戦略のレジリエンス評価

今年度のシナリオ分析は、以下の通りに行いました。

当社グループが実施したシナリオ分析の流れは、複数の気候変動シナリオ(多様な気候変動事象とその他の広範な変化について想定したもの)に基づいて、(a)事業活動に及ぼす影響を定性的に評価するとともに、(b)保有する資産のうち炭素関連産業に区分される部分の評価損を計算しました。そして、これらの評価と計算に基づき、当社の戦略や対応方針を検討しています。

図表3-12 シナリオ分析イメージ

図表3-12 シナリオ分析イメージ

想定シナリオ

二酸化炭素(CO2)の累積排出量と世界の平均気温上昇と間に正の相関があるとの科学的関係から、CO2排出削減の経路が将来の気候変動の大きな鍵を握ると考えられます。この削減の進捗速度と手法の優劣に加えて、災害等の自然現象、気候事象に固有の社会的変化、その他の広範な経済事象など、考慮すべき要素は多岐におよび、将来の姿は一概に決まるものではありません。今回のシナリオ分析では多様な経路が想定されているNGFSのシナリオを参考にして検討を行いました。概要は図表3-13をご参照ください。

  • 各国の中央銀行や金融監督当局等が参加するNGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)が策定した金融システムの影響評価シナリオ

図表3-13 想定シナリオ

出所:NGFSより作成

シナリオ   基本要素 想定されるリスク
  参考シナリオ
(NGFS)
気温上昇
(2050年)
CO2排出 物理的リスク
(自然災害等)
移行リスク
(気候関連固有)
(1) 秩序ある移行
(対応積極的)
Net Zero 2050 約1.5℃
(抑制)
削減
(順調)
(2) 無秩序な移行
(対応乱れ)
Delayed Transition 削減
(逆風有)
(3) ホット・ハウス・ワールド
(対応消極的)
Current Policies 3℃超
(継続)
削減ペース
現状継続

分析結果

事業活動に及ぼす影響の定性的分析

経済および産業の停滞・収縮、金融市場の変化(株価下落、クレジットリスク増大等)、豪雨・水害等の被害、並びに異常高温による健康被害などが、相対的に懸念される要素として挙げられました。シナリオに当てはめると、経済停滞・金融市場の変化などはCO2排出削減に伴い経済・社会が混乱するケース(無秩序な移行)、豪雨・水害被害および異常高温などはCO2排出削減が遅れるケース(ホット・ハウス・ワールド)において、相対的に顕在化すると見込まれます。

一方で、エネルギー転換等が事業に及ぼす影響については、化石資源の削減に伴う既存事業への負の影響と、再エネ等の新エネルギーの増加に伴う新たな事業機会という正の影響が混在しており、全体では中立に近い要因と位置付けられます。なお、CO2排出削減などの気候対策への取組みは企業の評判(レピュテーション)を左右する可能性があり、当社グループのビジネス全般に間接的に影響を及ぼすと見込まれます。

このように、当社グループは、エネルギー転換など気候事象と関連の強い社会・経済的な要素については、一定の適応力を有していると考えられます。豪雨・水害等を直接被るリスクに対して減災対策やBCPの策定で備えるとともに、気候対策を着実に実行してレピュテーションを維持することにより、マクロ経済等が停滞する場合でもそのマイナスの影響を抑えることが可能と考えられます。

保有する資産のうち炭素関連産業に区分される資産の評価損

CO2排出削減の過程で混乱が伴う「無秩序な移行」シナリオが経済的な逆風が大きく、気候変動の影響が無いと仮定したシナリオと比べて約550億円の損失となりました(2023~2050年累計)。削減の進捗そのものよりも社会全体の対応の優劣が鍵を握ると考えられます。

今後の対応

今回のシナリオ分析は、現時点で得られる情報やデータを基に仮定を設定し、分析対象を限定して検討したものです。気候関連リスクの考慮対象は幅広く、リスクの発生時期と規模は多様なパターンが想定されます。当社グループは、今回のシナリオ分析により得られた解釈と結果を保守的に解釈しつつ、今後はより多くの情報と関連データを入手して分析手法の改良を図ります。また、シナリオ分析を通じたリスクの抽出をより精緻化し、当社グループの適切な開示に反映させることに努めていきます。