3.戦略

(1)気候関連のリスクと機会についての認識

当社グループでは、気候変動問題を解決すべき喫緊の課題であると同時にビジネスチャンスと捉え、事業に影響を与えると見込まれる気候関連のリスク(移行リスク/物理的リスク)を整理するとともに、脱炭素社会の実現に向けて、本業である金融商品・サービスの開発・提供を通じたビジネス機会を整理しています。このようなリスクと機会の認識に基づく対応方針を検討の上、気候変動へのレジリエンスを高めるための戦略的な取組みを推進していきます。

(2)気候関連リスク

当社グループでは、気候変動シナリオに基づく定性分析を行い、事業に負の影響を与えると見込まれるリスクを整理しています。

主な移行リスクの例として、カーボンプライシング等に伴う取引先の業績悪化及びこれに伴う収益悪化(政策/法規制)、エネルギー関連技術への対応遅れに伴う当社グループの運用資産の価値下落(技術)、ファンド保有資産の価値低下、残高減少(市場)、気候変動対策の取組み不足や環境負荷の高い事業に係る投資・引受に伴う当社グループの評判悪化(評判)などが挙げられます。

主な物理的リスクの例として、当社グループの各事業拠点、データセンター等の被災、復旧、修繕費用の増加(急性/慢性)、豪雨・巨大台風の増加による太陽光/風力発電設備の被害・棄損(急性/慢性)などが挙げられます。

これらの気候関連リスクの認識とともに、リスクが事業に及ぼす影響や発生頻度等を踏まえた対応策を検討の上、戦略的な取組みを進めています。

気候関連リスクの例

リスクタイプ 気候関連リスク 時間軸 主なリスクカテゴリー リスク低減に資する取組み例
移行 政策/法規制 カーボンプライシング等に伴う取引先の業績悪化及びこれに伴う収益悪化 短~長期 信用リスク
オペレーショナル
リスク
カーボンプライシングや情報開示義務化等に伴う当社グループの体制整備と対応の遅れ 短~長期
技術 エネルギー関連技術への対応遅れに伴う当社グループの運用資産の価値下落 中~長期
エネルギー関連技術の変化に伴う当社グループのコスト増加 中~長期
市場 ファンド保有資産の価値低下、残高減少 中~長期 市場リスク
当社グループの保有資産や物件の価値低下、売却機会の減少 短~長期
評判 気候変動対策の取組み不足や環境負荷の高い事業に係る投資・引受に伴う当社グループの評判悪化 短~長期 レピュテーショナル
リスク
上記評判悪化による、ビジネス機会の減少及び資金調達コスト増加 短~長期
物理的 急性/慢性 異常気象の発生による市場の混乱に伴う、保有資産や物件の価値低下、売却機会の減少 中~長期 信用リスク
市場リスク
猛暑等によるお客様の健康被害の増加及び就労の制約、これらに伴う収益悪化 短~長期
風水害等の被災に伴う取引先の復旧費用の増加及び破綻、これらに伴う収益悪化 短~長期
豪雨・巨大台風の増加による太陽光/風力発電設備の被害・棄損 短~長期
猛暑等による当社グループの役職員の健康被害の増加、就労の制約及びこれらに伴う収益悪化 中~長期 オペレーショナル
リスク
減災対策やBCPの策定
当社グループの各事業拠点、データセンター等の被災、復旧、修繕費用の増加 短~長期

気候関連の時間軸については、経営計画との整合性に鑑みて定義しています。具体的には、短期については中期経営計画期間が3年であること、中期については2030年が「2030Vision」の目標年であり、自社のGHG排出量ネットゼロを目標としていること、長期については2050年に投融資ポートフォリオ等のGHG排出量ネットゼロを目標としていることを勘案し、それぞれ3~5年、5~10年、10~30年を想定しています。

(3)気候関連リスクを踏まえた戦略のレジリエンス評価

当社グループは、気候関連リスクが事業に及ぼす影響を認識するとともに、将来の気候関連の変化や進展及び不確実性に対するレジリエンス評価として、TCFD提言※1及びIFRS S2号※2を参考に、シナリオ分析を行っています。

移行リスクについては、NGFSの気候シナリオ※3を用いて、保有する資産のうち気候関連のエクスポージャーとして炭素関連産業に区分される部分の評価損を試算しています。

物理的リスクについては、IPCCの気候シナリオ※4を参考に、気候変動に伴って発生する風水害による保有不動産の物理的な被害額を試算しています。

また、これらのシナリオ分析の評価結果やそれに基づく当社の戦略や対応方針は、サステナビリティ推進委員会での議論を経て、執行役会に報告しています。シナリオの詳細と分析にあたっての前提は以下の通りです。

  • ※1TCFDガイダンス、技術的補足文書 気候関連リスク及び機会の開示におけるシナリオ分析の利用(2017年)
  • ※2IFRS S2号22項及び付録B1~B18項(2023年)
  • ※3各国の中央銀行や金融監督当局等が参加するNGFS(気候リスク等に係る金融当局ネットワーク)が策定した金融システムの影響評価シナリオ
  • ※4気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)が公表したGHGの排出シナリオ

シナリオ分析の前提

項目 (a)定性分析 定量分析
(b)移行リスク (c)物理的リスク
影響期間 長期 長期 短期 長期
参照
シナリオ
NGFSによる
気候シナリオにて
用いられる変数などを考慮
NGFSによる気候シナリオ:
Net Zero 2050 / Delayed Transition / Fragmented World / Current policies
IPCCによる気候シナリオ:
RCP 4.5/RCP 8.5
分析内容 移行リスク・物理的リスクが
当社グループの事業全体に与える影響
主に移行リスク(政策・規制・需給状況等の
変化による金融市場への影響)
  • 分析対象:非トレーディング勘定資産
    グループ主要各社による投資・出資、
    大和ネクスト銀行貸出(CLO)、
    LMS担保金融商品として保有する炭素関連資産
  • 分析指標:
    炭素関連資産の累計想定損失額、年平均損失額
主に移行リスク(政策・規制・需給状況等の
変化による金融市場への影響)
  • 分析対象:トレーディング勘定資産
    大和証券・海外拠点保有の事業債
    (炭素関連セクター)
  • 分析指標:
    事業債(炭素関連セクター)の
    クレジットスプレッド想定損失
物理的リスク/急性(風水害)
  • 対象対象:
    グループ主要各社の不動産関連
    エクスポージャー及び
    当社グループ保有の非営業不動産等
  • 分析指標:
    対象物件の想定年平均損失額
昨年度から
の変更点
投資・出資において、当社グループの
連結子会社の対象範囲を拡大
新規 新規

想定シナリオ

  (i)秩序ある移行
(対応積極的)
(ii)無秩序な移行
(対応乱れ)
(iii)遅延・不十分
(対応遅れ・不十分)
(iv)ホット・ハウス・ワールド
(対応消極的)
NGFSによる気候シナリオ Net Zero 2050 Delayed Transition Fragmented World Current Policies
シナリオ概要 厳格な排出削減政策とイノベーションにより、
気温上昇を1.5℃未満に抑制し、
2050年に世界のGHG排出量をネットゼロにすることを目指す。
2030年までに排出量がほとんど減少しない。
気温上昇を2℃に抑えるには強力な政策が必要。
CO2除去は限定的。
2030年までに排出量がほとんど減少せず、
それ以降の対策も足並み乱れて不十分。
気温上昇を抑えられず。
現在実施されている政策のみが保持される想定。
物理的リスクが高くなる。
 
シナリオ前提 政策導入 迅速かつ円滑 遅延 遅延かつ不十分 現行政策のまま
マクロ経済動向 比較的小幅なGDP減少 比較的大幅なGDP減少 比較的大幅なGDP減少 比較的大幅なGDP減少
エネルギーの使用 比較的大幅に減少 比較的大幅に減少(2030年代以降) 比較的大幅に減少(2030年代以降) 比較的大幅に増加
技術変化 速い 遅い/速い 遅い/不十分 遅い
 
気候変動の影響 気温上昇(2050年) 約1.5℃ 約1.5℃ 2℃強 約3℃
CO2排出 削減(順調) 削減(逆風有) 削減(不十分) 現状の削減ベース維持
国・地域レベルの変数 基本的に国内のみ考慮 基本的に国内のみ考慮 基本的に国内のみ考慮 基本的に国内のみ考慮
 
想定リスク 移行リスク  移行リスク  移行リスク  移行リスク 
物理的リスク  物理的リスク  物理的リスク  物理的リスク 
  • NGFS Climate Scenarios Phase IVを参考に作成

① 分析結果

(a)事業活動に及ぼす影響

経済及び産業の停滞・収縮、⾦融市場の変化(株価下落、クレジットリスク増⼤等)、豪⾬・⽔害等の被害、並びに異常⾼温による健康被害などが、相対的に懸念される要素として挙げられました。シナリオに当てはめると、移行リスクはCO2排出削減に伴い経済・社会が混乱する「(ii)無秩序な移行」「(iii)遅延・不十分」において、物理的リスクはCO2排出削減が遅れる「(iv)ホット・ハウス・ワールド」において、相対的に顕在化すると⾒込まれます。

⼀⽅で、エネルギー転換等が事業に及ぼす影響については、化⽯資源の削減に伴う既存事業への負の影響と、再エネ等の新エネルギーの増加に伴う新たな事業機会という正の影響が混在しており、全体では中⽴に近い要因と位置付けられます。なお、転換に伴う費用や税などの負担に応じて影響が変化すると見込まれます。また、CO2排出削減などの気候対策への取組みは企業の評判を左右する可能性があり、ビジネス全般に間接的に影響を及ぼすと⾒込まれます。

このように、当社グループは、エネルギー転換など気候事象と関連の強い社会・経済的な要素について、事業全体への正の影響と負の影響を総合的に考慮した結果、⼀定の適応⼒を有していると考えられます。さらに、負の影響を軽減するために、豪⾬・⽔害等を直接被るリスクに対して減災対策や事業継続計画(BCP)の策定で備えるとともに、気候対策を着実に実⾏してレピュテーションを維持することにより、マクロ経済等が停滞する場合でもその負の影響を抑えることが可能と考えられます。

(b)保有する資産のうち炭素関連産業に区分される資産の評価損

消極的/現状政策のみの「(iv)ホット・ハウス・ワールド」と比較すると、長期の分析においては「(iii)遅延・不十分」にて約60億円、短期の分析においては「(ii)無秩序な移行」にて約2億円の損失となりました。

今回の分析結果に基づく当期及び翌期を含めた、短期的な財務の健全性に及ぼす気候関連リスク・機会による影響は、限定的であると考えています。引き続き分析結果を精査した上で、特に影響額の高い炭素関連資産について、中長期的に削減していくことを目指します。

また、炭素関連資産の削減を進めていくためには、社会全体の脱炭素化への移行も必要と考えられます。当社グループでは、脱炭素社会の早期実現に貢献すべく、国内外におけるさまざまな議論形成の場や各種イニシアティブへの参画を積極的に行っています。

(c)保有物件への物理的な被害額

気候変動に伴う異常気象の増加により、当社グループの戦略上、相応の割合を占める不動産関連エクスポージャー及び当社グループ保有の非営業不動産に影響が想定されます。

シナリオ分析の結果、風水害による年平均想定被害額としては、最も気温上昇が高いRCP8.5シナリオのもとで、2030年単年で0.4億円、2050年単年で0.5億円程度となりました。今回の分析対象である当社グループ保有の不動産は、風水害の影響を受けにくい立地に多く、堅牢な建物構造や高層階の物件が中心などの特徴から、当社グループへの財務的な影響は限定的であると考えています。

② 今後の対応

今回のシナリオ分析は、現時点で得られる情報やデータを基に仮定を設定し、分析対象を限定して検討したものです。気候関連リスクの考慮対象は幅広く、リスクの発生時期と規模は多様なパターンが想定されます。今後は、より多くの情報と関連データを入手し、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローへの中・長期的な影響を把握するとともに、気候変動へのレジリエンスを高めるためにも、分析手法の改良を図ります。

また、当社グループでは、このようなシナリオ分析による財務影響の把握に加えて、気候変動に伴って発生する政策/法規制・市場・技術の変化等のリスクに対するステークスホルダーとのエンゲージメント強化やサステナブルファイナンス等の促進、物理的リスクに対するBCP対策等を進め、戦略のレジリエンスを高めていきます。具体的な取組みは「3.戦略(5)気候変動に関連して推進する戦略的な取組み」をご参照ください。

(4)気候関連機会

当社グループでは、グループ会社や各本部にヒアリングの上、シナリオ分析を通じて把握した影響も加味しながら、気候関連リスクと併せて気候関連機会を特定し、その重要性を評価しています。

主な機会の例として、新たな金融商品の提供機会の増加や市場の変化による収益機会の拡大(ウェルスマネジメント部門)、脱炭素社会への移行に貢献する新産業・企業への投資機会の増大(アセットマネジメント部門)、グリーンプロジェクト及び脱炭素社会への移行に要する資金調達などの引受増加(グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング部門)、サステナビリティ関連のルールメイキングへの参画を通じた市場全体の活性化(グループ全体)などが挙げられます。

気候関連機会の例

事業部門 気候関連機会 時間軸 戦略的な取組み
ウェルスマネジメント部門 新たな金融商品の提供機会増加や市場の変化による収益機会の拡大 短~長期
アセットマネジメント部門 脱炭素技術を持つ企業を組入れた投資信託への資金流入 短~長期
太陽光発電所など再エネへの投資と外部資本の導入を通じた投資機会の拡大 短~長期
脱炭素社会への移行に貢献する新産業・企業への投資機会の増大 中~長期
環境性能の高い不動産・実物資産を裏付け資産とする投資法人・私募ファンドの組成・運用 短~長期
グローバル・マーケッツ&
インベストメント・バンキング部門
グリーンプロジェクト及び脱炭素社会への移行に要する資金調達などの引受増加 短~長期
再エネ分野のM&Aの増加 短~長期
その他 脱炭素社会への移行を支援するソリューションビジネス機会の拡大 短~長期
グループ全体 ネットゼロに向けた取組みを通じたレピュテーション向上による事業機会の拡大 短~長期
発行体や投資家等とのエンゲージメントを通じた脱炭素社会への移行や気候変動対応の支援 短~長期
サステナビリティ関連のルールメイキングへの参画を通じた市場全体の活性化 短~長期

(5)気候変動に関連して推進する戦略的な取組み

当社グループでは、各事業部門で特定した気候関連のリスクと機会を踏まえ、戦略的な取組みを推進しています。

移行リスク及び機会への対応策として、以下①から⑧の取組みを推進していきます。物理的リスクへの対応策としては、異常気象、風水害などによる社会的インフラの停止によって本店(本社機能)、支店、データセンターが被災して機能できなくなった場合を想定し、BCPを策定しています。

また、役職員の気候変動を含むサステナビリティに関する専門性向上を目的とした研修を実施するなど、人材育成も進めています。具体的には、2022年より、社員一人ひとりがサステナビリティに関する知識や意識を向上させ、一層「ジブンゴト」化することを目指し、全役職員を対象に「Vision研修」を毎年実施しています。

① 脱炭素社会実現に資する商品・サービスの開発・提供

当社グループは、脱炭素社会の実現に資する商品・サービスの開発・提供を強化しています。

大和アセットマネジメントでは、サステナブルな社会への移行に向けESGやSDGs目標達成などに取り組む企業を投資先とする投資信託を提供しています。なかでも、「脱炭素テクノロジー株式ファンド(愛称:カーボンZERO)」(純資産総額418億円)は、中心的位置付けのファンドです。

同社は当ファンドの取組みで、東京金融賞2021ESG投資部門で「グリーンファイナンス知事特別賞」を、また、環境省主催「ESGファイナンス・アワード・ジャパン」(第5回)選定委員長賞(銅賞)を受賞しました。また、運用助言するカンドリアム社は、スイスのハーシェル&クラマー社の責任投資ブランド・インデックス2023で、世界の運用資産会社約600社のなかから1位に選ばれました。

当ファンドは、以下の3つの明確な運用目的を持っています。

  • 2024年3月末時点

「脱炭素テクノロジー株式ファンド(愛称: カーボンZERO)」の運用目的

  1. 1.気候変動緩和テクノロジーに着目
    2050年脱炭素達成に資する気候変動対応策のなかでも重要な「緩和」策の最先端テクノロジーを有する企業に厳選投資します。
  2. 2.カーボンオフセットの仕組みを採用
    当ファンドは、投資対象企業のカーボン排出量を毎月計算し、カーボンオフセットの仕組みを利用してファンド全体でネットゼロにし、カーボンゼロ目標に寄与します。
    また大和証券をはじめとして賛同する販売会社とともに、「みんなで育む明日への森」植樹プロジェクトに信託報酬の一部を寄付しています。この2年間で日本全国に累計16,104本※1を植樹しました。
  3. 3.厳しいサステナブルファイナンス開示基準を満たす
    当ファンドは、EU(欧州連合)の、SFDR(サステナブルファイナンス開示規則)第9条という厳しい基準を満たす、ダークグリーンなファンドに相当します。モーニングスター社の報告では、該当ファンドは欧州でも4%※2と限られます。
  • ※12022年、2023年寄付実施分
  • ※2モーニングスターダイレクト(2022年12月末現在)

② サステナビリティを意識したソーシング・投資推進

当社グループでは、再エネ分野を中心とするサステナビリティを意識したソーシング・投資を推進しています。

2018年7月に大和エナジー・インフラを設立し、大和PIパートナーズにおいて取り組んでいたエネルギー投資機能を移管しました。従来は太陽光発電を中心に国内再エネ分野への投資を行っていましたが、現在では海外の再エネ及びインフラストラクチャーの分野へ投資領域を広げています。

2019年度は、英国で配電事業を行うElectricity North West Limitedへの出資を決定したほか、再エネ事業を開発・運用するドイツのAquila Capital Holding GmbHとの戦略的提携を決定しました。2022年度には、稼働済みとしては世界最大級の英国Hornsea One洋上風力発電所へ投資を行ったほか、2023年度は、フィンランドにて産業セクター向けの配電事業を行うAurora Infrastructureの株式を取得しました。

さらに、大和リアル・エステート・アセット・マネジメントでは、ESGに配慮した不動産など、オルタナティブ資産及び同資産の運用機会を提供しています。同社が運用業務を受託している大和証券オフィス投資法人及び大和証券リビング投資法人では、サステナブルファイナンスによる資金調達を活用し投資を行うことで、環境性能の高いオフィスビルや優良で質の高いヘルスケア施設の供給促進に努めています。また、太陽光発電所やバイオマス発電所の運用業務を受託しており、2021年9月には国内の機関投資家より出資を募り設立された、太陽光発電事業を投資対象とした私募ファンドである「DSREFコア・アマテラス投資事業有限責任組合」の運用業務を開始しました。

再エネ発電所の運用実績

件数:31件(北海道、東北、北陸、関東、中部、関西、中国、四国)

出力:太陽光発電 約294MW(底地運用資産分を除く)、バイオマス発電所 約20MW

運用資産残高:約1,087億円

  • 2024年3月末時点

③ サステナブルファイナンスの推進

当社グループは、グローバルな脱炭素化に向けた取組みを支援するため、本業として積極的にサステナブルファイナンスに取り組んでいます。

従前より資金調達の支援はコアビジネスでしたが、SDGsの要素が加わることにより、お客様に提供できる付加価値が増え、新たなビジネスの機会とも捉えています。2023年度には、花王によるクーポンステップアップ型サステナビリティ・リンク・ボンドや、世界初のサムライブルーボンドとなるインドネシア共和国サムライ債の主幹事を務め、商品多様化を進めてきました。また、日本政府のクライメート・トランジション利付国債の発行にあたり動向調査、フレームワーク素案の作成及びSecond Party Opinion取得に関連する助言・サポートを実施しました。加えて、プライマリー・ディーラーとして同ボンドの入札に参加し、国債の安定的な消化の促進、国債市場の流動性の維持・向上等を図るべく貢献しています。

2023年度の主なSDGs債の引受実績

発行体 種類 発行額
インドネシア共和国 サムライブルーボンド 207億円
花王 サステナビリティ・リンク・ボンド 250億円
日本電気 サステナビリティ・リンク・ボンド 計400億円
国際協力機構(JICA) サステナビリティボンド 計320億円
東京都 グリーンボンド 計400億円
三菱電機 グリーンボンド 計500億円

エクイティファイナンスに関しても、2023年度には、テスホールディングスの国内初のサステナビリティライツ・オファリングや、社会・環境に配慮した企業への国際的な認証制度である「B-Corp」を取得した企業による国内初のIPO案件であるクラダシへの上場支援を通じて市場形成に寄与しています。

また、当社グループは、2024 年1 月31 日に策定・公表したグリーンファイナンス・フレームワークに基づき、自社としても国内公募形式によるグリーンボンドを発行しており、その調達資金は、連結子会社を通じて行った再エネ発電プロジェクトへの投融資資金に係る社債償還資金に充当しました。

④ サステナビリティ分野のM&Aアドバイザリー強化

当社グループでは、先行する欧州の有力企業と連携することで、再エネ分野のM&Aアドバイザリーも強化しています。具体的には、同分野に特化したフィナンシャル・アドバイザリー事業を行うGreen Giraffeへの50%の出資、また、同分野を投資対象とした運用会社であるAquila Groupとの資本・業務提携を行い、事業展開を加速しています。

サステナビリティ分野を含む当社グループの海外M&Aビジネスは着実にトップラインを伸ばしており、2023年度のM&A関連収益は489億円に達しています。2030年度に向け、700億円以上の収益を目指し、人員を強化します。現在は日本を含むグローバル体制で700名ですが、2030年度には900名まで増やしていきます。

M&A関連収益の推移

(サステナビリティ分野を含む当社グループ全体)

(単位:十億円)

M&A関連収益の推移

⑤ サステナビリティ関連のソリューション提供

大和総研によるリサーチ、コンサルティング業務において、サステナビリティ関連のソリューション提供を強化していきます。

気候変動による経済・社会への影響に関する情報発信や政策提言、気候変動対応をはじめ気候関連リスクに対する経営戦略の立案やプロジェクト支援などのコンサルティングを強化し、お客様の企業価値の向上に繋げていきます。

⑥ 自社のカーボンニュートラルの実現

当社グループは「カーボンニュートラル宣言」を策定し、カーボンニュートラル実現に向けた取組みを進めています。詳細は、「3.戦略(6)カーボンニュートラル実現に向けた移行計画」をご参照ください。

⑦ ステークホルダーとのエンゲージメント強化

当社グループでは、お客様の脱炭素への移行を金融面で支援するため、発行体や投資家をはじめとするステークホルダーの皆様とのエンゲージメントを強化しています。例えば、「環境・社会関連ポリシーフレームワーク」を基に、環境や社会に対して多大な負の影響を与える可能性がある事業に関するリスクを認識した上で、投融資先とのエンゲージメント等を通じた適切な対応に取り組んでいます。

また、大和アセットマネジメントでは、気候変動をマテリアリティの一つと位置付け、投資先企業とのエンゲージメント活動を行っています。同社では、投資先企業が持続的な企業価値向上を実現するための「あるべき経営の姿」(ベストプラクティス)を定め、エンゲージメント等を通じて、投資先企業に対しこれらの取組みを働きかけています。なお、2023年1月から12月に同社では1,377件のエンゲージメントを行っており、ESGに関するテーマが占める割合は27.9%となっています

  • 1回のミーティングで複数のテーマについて議論

ベストプラクティスの一例(気候変動)

  • TCFDの枠組みに沿って様々な気候変動シナリオを想定し分析することで、移行リスク、物理的リスク、事業機会が特定されている。
  • GHG排出量や原単位の実態及び想定されるリスクと機会を定量的に把握する。
  • 2050年カーボンニュートラル達成までの具体的なロードマップ、マイルストーンを策定し、その進捗状況について毎年説明する。なお2030年の目標として、当社のNZAMi中間目標とも整合する50%以上の削減を目指すことが望ましい。
  • リスク・機会の両面を取り込んだ事業戦略を策定・実行し、活動状況の総括・評価を実施する。
  • Net Zero Asset Managers initiative

⑧ ルールメイキングへの関与

当社グループは、持続可能な社会の実現に貢献すべく、国内外におけるさまざまな議論形成の場や各種イニシアティブへの参画を積極的に行っています。

近年、サステナビリティ開示基準の策定に向けた取組みが進展するなか、ISSBなどを傘下に持つIFRS財団の評議員や、国内のサステナビリティ開示基準の策定を行うサステナビリティ基準委員会(SSBJ)の委員に当社グループの役職員が就任し、積極的な活動を行っています。

また、投融資などを通じたGHG排出量を計測・開示する手法を開発するPartnership for Carbon Accounting Financials(PCAF)やGXリーグへの参画を通じて、各種ルールメイキングに貢献しています。

さらに、大和証券は、東京証券取引所が開設するカーボン・クレジット市場において、マーケットメイカーとして参加しました。その結果、再エネルギー(電力)区分において注文の表示時間と売却数量の両基準を満たし、カーボン・クレジット市場の流動性と適正な価格形成に貢献したことが認められ、2023年度に、グッド・マーケットメイカーの表彰を受けました。

(6)カーボンニュートラル実現に向けた移行計画

① 2030年度まで自社のGHG排出量(Scope1・2)ネットゼロ

2030年度までのカーボンニュートラルに向けて、自社のGHG排出量(Scope1・2)のネットゼロを推進します。Scope1・2の推移は以下の通りです。具体的な取組みとしては、省エネ活動の継続及び使用電力の再エネ化等を進めていきます。

Scope1・2の推移

(自社のGHG排出量)

Scope1・2の推移

Scope1・2ネットゼロ推進に向けた取組み例

これまでの取組み例 今後の取組み例
  • エネルギー利用の効率化
    • 設備の切替(空調、照明のLED化)
    • オペレーションの見直し 等
  • トラッキング付非化石証書の活用等による再エネへの切り替え
    • 大和証券(24年1月~)・大和総研(24年4月~)の国内全拠点の使用電力を再エネへ切り替え
  • エネルギー利用の効率化を継続的に実施
  • 海外拠点等への再エネの導入を検討
  • カーボンオフセットの活用
    • Jクレジット等、カーボンクレジットの購入

省エネ活動については、現状、各施設における省エネ技術/システムの導入やエネルギー利用の効率化などを行っています。今後もこれらについて継続的に実施していきます。

また、再エネの導入については、2021年4月より本社ビル(グラントウキョウノースタワー)に入居する全てのグループ会社において、トラッキング付非化石証書を活用することで再エネ化しています。さらに、2022年10月より、証書の活用等による再エネへの切り替えを大和証券の自社物件等から進め、2024年1月には大和証券の、また同年4月には大和総研の国内全拠点のScope2のうち使用電力について、再エネへ切り替えました。国内拠点においては2025年中間目標を設定し、GXリーグに提出しています(Scope1: 416 t、Scope2 : 55 t)。

今後は海外拠点の再エネへの切り替え、カーボン・クレジット等によるカーボンオフセットの活用について検討を進めることで、2025年中間目標の達成、2030年度までのScope1・2ネットゼロ達成を目指します。なお、当社はオフィス等に導入する再エネの電力メニューを選定する際に、GHG排出量の削減効果だけではなく、インターナル・カーボン・プライシング(ICP)を活用することでその判断材料にしています。具体的には、Jクレジット価格をもとに算定した、将来想定される費用と、再エネ導入による追加費用の比較を行っています。算定にあたっては、電力会社から取得した、再エネ導入により想定されるGHG削減量に関するデータを用いています。今後は価格設定の見直しなども検討し、再エネ導入による追加コストの妥当性判断にICPを活用します。

  • 2023年度は3,278円/t-CO2

② 2050年までの投融資ポートフォリオのGHG排出量等(Scope3)ネットゼロ

脱炭素社会の実現に向け、自社の排出量だけでなくサプライチェーン全体での排出量の管理・削減が求められています。特に金融機関には、投融資ポートフォリオのGHG排出量(Financed Emissions)や引受などの資本市場業務に関するGHG排出量(Facilitated Emissions)等のScope3カテゴリ15の管理が求められています。

■ Financed Emissions

Financed Emissionsの削減に向けた具体的なプロセスとして、優先アセットクラス・優先セクターの選定、セクター特性の分析・分析データの収集、排出量の計測・グループ内管理手法の検討、SBT(Science Based Targets)等を活用した中間目標の設定・開示などから着手し、目標の達成に向けた戦略策定・エンゲージメントの推進・強化を進めていきます。

Financed Emissionsの削減に向けたモニタリングのイメージ
Financed Emissionsの削減に向けたモニタリングのイメージ

当社グループは、2021年12月にPCAF及び「PCAF Japan coalition」に加盟し、PCAFの知見やデータベースを活用しながらGHG排出量の計測をしています。

また、実績値の計測に加えて、セクター毎に2030年度の中間目標の設定を行います。2023年度は、当社グループの投融資ポートフォリオの排出量において現時点で最も大きな割合を占める電力セクターのプロジェクトファイナンスに関する目標を設定しました。詳細は、「5.指標及び目標」をご参照ください。

■ Facilitated Emissions

当社グループの主要業務である引受などの資本市場業務に関するGHG排出量(Facilitated Emissions)についても国際的に議論が行われており、動向を注視しています。2023年には、PCAFが当該計測手法についてのガイダンスを公表しました。

当社グループも関連部署と協議を進め、まずは実績値の試算を進める予定です。

大和証券においては、トランジション・ファイナンスの推進等、資本市場業務を通じた脱炭素社会への貢献に注力しており、引き続き取組みを強化していきます。

③ 金融ビジネスを通じた脱炭素社会へのスムーズな移行の支援

総合証券グループとして、金融ビジネスを通じたお客様の脱炭素化に向けた取組みへの支援にも引き続き取り組んでいます。

詳細は、「3.戦略(5)気候変動に関連して推進する戦略的な取組み」をご参照ください。

(7)自然資本・生物多様性への取組み

2022年12月に生物多様性条約第15回締結国会議(COP15)が開催され、生物多様性の保全に向けた取組みを推進する国際的な議論が加速しています。当社グループの事業活動を含む、社会・経済における企業活動においても、自然資本に大きく依存するとともに、それらに対して影響も与えていることから、自然資本や生物多様性の毀損は、当社グループにとっても少なからずリスクであると私たちは認識しています。同時に、資金循環を通じてネイチャーポジティブに貢献できると考えています。

当社グループは2021年5月、当社グループの目指すべき姿を経営ビジョン「2030Vision」として策定しました。その後、2024年には外部環境の変化等を踏まえたレビューを行いました。「2030Vision」では「グリーン&ソーシャル」をマテリアリティの一つと位置付け、持続可能な社会の実現に向けたサステナブルファイナンスを促進しています。また、当社グループが掲げる「環境ビジョン・環境理念・環境基本方針」においても資源循環や生物多様性の重要性を謳っています。

このように当社グループでは、自然資本についても重要であると位置付けており、2022年に大和アセットマネジメントとともにTNFDフォーラムへ参画、2023年12月にはTNFD Adopterへ登録しました。TNFDフレームワークに沿った開示を行うべく、同フレームワークを参考にLEAP分析を2023年度に開始しており、ENCORE等による初期的な分析に着手しました。

今後は、優先セクターについてより詳細な分析を行い、当社グループとしてのリスクと機会を把握するとともに、当社グループにおける自然資本関連情報を段階的に開示してまいります。さらに、自然資本の回復に向けて取り組むとともに、持続可能な社会の実現に向けたサステナブルファイナンスの促進等により、金融・資本市場を通じ、豊かな未来を創造すべく努めてまいります。

  • TNFDは、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)、国連開発計画(UNDP)、世界自然保護基金(WWF)、及びGlobal Canopyにより2021年6月に正式に発足した、自然関連の財務情報を開示する枠組みの開発・提供を目指す国際イニシアティブ。TNFDフォーラムは、TNFDの議論をサポートするステークホルダー組織