4.リスク管理
(1)気候関連リスクの管理
① リスク管理の概要
当社グループの経営ビジョン「2030Vision」のコアコンセプトである「金融・資本市場を通じ、豊かな未来を創造する」を実現するためには、事業特性やリスク・プロファイルを踏まえてサステナビリティ関連のリスクを認識し、かつ適切な評価のもとに管理していくことが重要です。
サステナビリティ関連の課題の一つである気候関連リスクについては、気候現象のみならず、政治・社会の対応や経済構造など多くの要素が関係し、相互に影響を及ぼし合います。例えば、脱炭素社会への移行過程で経済全体の変化を受けた株式や金利などへの影響(市場リスク)、脱炭素への移行などの気候変動対応に伴う企業の事業や財務状況への影響(信用リスク)など、気候関連リスクは既存の各リスクを発生又は増幅させる要因となります。このため、既存のリスク管理の枠組みの中で気候関連リスクの影響を考慮しています。各リスクの定義や管理プロセスについては以下の通りです。
リスク管理の体制
■ 市場リスク管理
市場リスクとは、株式・金利・為替・コモディティなどの相場が変動することにより損失を被るリスクです。当社グループのトレーディング業務では、市場流動性を提供することで対価を得るとともに、一定の金融資産等の保有を通じて市場リスクを負っています。当社グループでは、損益変動の抑制のために適宜ヘッジを実施していますが、ストレス時にはヘッジが有効に機能しなくなる可能性があるため、財務状況や対象部門のビジネスプラン・予算などを勘案したうえで、VaR(バリュー・アット・リスク)※1及び各種ストレステスト※2による損失見積りが自己資本の範囲内に収まるように、それぞれ限度枠を設定しています。その他、ポジション、感応度などにも限度枠を設定しています。
当社グループのトレーディング業務を担当する部門において、自らの市場リスクを把握する目的でポジションや感応度を算出し、モニタリングを行っている一方で、リスク管理部署でも市場リスクの状況をモニタリングし、設定された限度枠内であるかどうかを確認のうえ、経営陣に日次で報告しています。
気候関連リスクが、トレーディング業務のポジションに与える影響の分析・評価については、NGFSの各シナリオを基に短期化したシナリオを用いたストレステストを実施しています。今後も適時取組みの改善を進めていきます。
- ※1特定のポジションを一定期間保有すると仮定した場合において、将来の価格変動により一定の確率の範囲内で統計的に予想される最大の損失額
- ※2過去の大幅なマーケット変動に基づくシナリオや、仮想的なストレスイベントに基づくシナリオに基づき発生し得る、当社グループにとって重大な損失額を算出すること
■ 信用リスク管理
信用リスクとは、金融取引の取引先や保有する金融商品の発行体のデフォルト、あるいは信用力の変化などにより損失を被るリスクです。
当社グループのトレーディング業務における信用リスクには取引先リスクと発行体リスクがあります。
当社グループは、商品提供や資産運用・投資を行うことに伴い、さまざまな商品・取引のエクスポージャーが特定の取引先グループに集中するリスクがあります。当該取引先グループの信用状況が悪化した場合、大幅な損失が発生する可能性があるため、一取引先グループに対するエクスポージャーの合計に対し限度額を設定し、定期的にモニタリングしています。
取引先リスクについては、当社グループが一取引先グループに対して許容できる与信相当額の上限を設定し、定期的にモニタリングしています。
発行体リスクについては、マーケットメイクにより保有する金融商品の発行体の信用リスクについてもリスク量をモニタリングしています。
今後、当社グループのエクスポージャーにおける潜在的な気候関連リスク評価の高度化を進めていきます。
■ オペレーショナルリスク管理
オペレーショナルリスクとは、内部プロセス・人・システムが不適切であること、もしくは機能しないこと、または外生的事象が生起することから生じる損失に係るリスクです。
当社グループでは、オペレーショナルリスクを事務リスク、システムリスク、情報セキュリティリスク、コンプライアンスリスク、リーガルリスク、人的リスク、有形資産リスクの7つに分類し、各リスクを所管する部署を定めて管理しており、グループ各社の事業特性に応じたオペレーショナルリスクの削減に努めています。
また、当社グループでは、地震、火災、風水害、異常気象、テロ、大規模停電、重大な感染症などによる社会的インフラの停止によって、本店(本社機能)、支店、データセンターが被災して機能できなくなった場合を想定し、証券市場の機能維持とお客様の生活・経済活動維持の観点から重要な業務※を優先して再開・継続させることを目的として、BCPを策定しています。この計画に沿って、お客様及び社員の生命の安全確保と資産の保護を図りつつ、証券会社としての事業の公共性に鑑み、重要業務を継続させていきます。具体的には、国内最高水準のバックアップセンターを備えるとともに、本社機能が麻痺した場合においても、代替オフィスにおいて平時と同様に重要業務を継続できる体制を構築しています。また、新商品の企画時においては、ESGの観点から適切であるかを確認するフローを組み込んでいます。
- ※優先して再開・継続させる重要業務は、①既約定未受渡取引の対市場決済業務、②出金業務、③新規の受注業務として、商品(国内上場株式、MRF、個人向け国債、普通預金)の売り及び解約、信用取引の売り埋めの顧客注文
■ レピュテーショナルリスク管理
レピュテーショナルリスクとは、当社グループに関する風評や、誤った情報などにより当社グループの信用・評判・評価が低下し、不測の損失ならびに当社グループの取引先の動向への悪影響などが生じるリスクです。さまざまな事象に起因するため、その管理手法は必ずしも一律のものではありません。
当社グループでは、特に情報管理と情報提供の観点からディスクロージャー・ポリシーに基づく各種規程を整備し、大和証券グループ本社にディスクロージャー委員会を設置しています。
グループ各社においては、ディスクロージャー委員会にレピュテーショナルリスクの発生が想定される情報を報告することが義務付けられており、大和証券グループ本社での情報の把握、一元管理と、同委員会決定によるタイムリーで正確な情報発信を行っています。
また、当該リスクが発生した場合には、当社グループへの影響を最小限にとどめるため、レピュテーショナルリスクに係る問題・事象の状況把握に努め、誤りや不正確な情報については的確に是正し、誹謗中傷などに対しては、適切な対処を講じるなど、リスクの未然防止及び極小化を図る広報・IR活動体制をとっています。
今後、気候関連リスクが当社グループのレピュテーションに与える影響の分析・評価を進めていきます。
② リスクアペタイト・フレームワークにおける気候関連リスク
当社グループは、グローバル金融機関として事業戦略と整合的なリスクテイクの方針を定め、リスクガバナンスを強化するため、リスクアペタイト・フレームワーク(RAF)を導入しています。RAFとは、収益目標や事業戦略の達成のために進んで受け入れるべきリスクの種類と総量をリスクアペタイトとして定め、リスクテイク方針全般に関する社内の共通言語として用いる経営管理の枠組みです。RAFは、「リスクアペタイト・ステートメント」として文書化の上、取締役会において審議・決定し、年2回見直しを行います。
本ステートメントでは、2021年度より気候関連リスクを取り上げています。これにより、気候関連リスクについて、そのリスク・プロファイルに応じて適切に特定・評価し効果的に管理していきます。
③ トップリスク(気候変動)
リスク事象のうち、当社グループの事業の性質に鑑みて特に注意すべきものをトップリスクとして選定し管理しています。トップリスクの選定にあたって、経営陣が広範なリスクを認識・議論できるように、社内外より収集したリスク事象をもとに、関連部署が整理・抽出したリスク事象をトップリスクの候補として「見える化」します。その上で当社グループの取締役・執行役が、当社グループの業績に与える影響度と当該リスク事象の発生可能性からフォワードルッキングに評価し、当該候補からトップリスクを抽出し選定します。
当社グループは、気候変動が金融機関経営や金融システムの安定に及ぼす影響への重要性が高まっていることを踏まえて、気候変動をトップリスクの一つとして位置付けています。
トップリスク一覧
リスク事象 | シナリオ(例) |
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国際紛争・対立の深刻化(米中対立の激化(台湾有事)、 ロシア・ウクライナ紛争、中東情勢の緊迫化等) |
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日本の財政不安による国債格下げや円資産の暴落 |
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日本のスタグフレーションリスク(構造的インフレ継続と景気後退) |
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米国の景気後退 |
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中国経済危機 |
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金融危機の再来 |
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DXへの不十分な対応 |
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AIによる誤報・偽情報 |
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大規模地震 |
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気候変動(異常気象) |
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新たな感染症の流行 |
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トレーディング業務におけるストレス時の損失 |
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大口投資先の業績悪化・資産価値毀損 |
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サイバー攻撃 |
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システム障害 |
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コンプライアンスリスク(マネー・ローンダリング、 インサイダー取引を含む役職員による不適切な行為等) |
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情報セキュリティリスク(重大な情報漏えい等) |
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(2)環境・社会関連ポリシーフレームワーク
当社グループは、地球環境/生物多様性の保全や人権の保護など、環境・社会リスクの管理体制を強化するため、「環境・社会関連ポリシーフレームワーク」を策定しています。本フレームワークでは、新規の投融資と債券/株式発行にかかる引受を対象とし、投融資等を禁止する事業及び留意する事業を定めています。
これらの事業への投融資等に際しては、対象となる案件に対して初期的なESGデュー・デリジェンスを実施します。当該評価の結果、追加的な確認が必要と判断した場合には、強化ESGデュー・デリジェンスを実施し、投融資等の可否を判断します。当該案件の実施が当社グループの企業価値を大きく毀損する可能性がある場合には、さらに経営陣による追加協議を行い、最終的な投融資等の可否を判断します。
なお、本フレームワークは、国内外の動向を踏まえながら定期的に見直しを行っています。
「環境・社会関連ポリシーフレームワーク」の改定
改定時期 | 改定内容 |
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2021年6月 | 「環境・社会関連ポリシーフレームワーク」の策定 |
2021年12月 | 適用対象を債券/株式発行にかかる引受に拡大 |
2022年12月 | パーム油農園開発事業、森林破壊を伴う事業、炭鉱採掘事業、石油・ガス開発事業に関するポリシーの厳格化 |
2023年12月 | 人権やサプライチェーン管理に関するポリシーの厳格化 |
「環境・社会関連ポリシーフレームワーク」の概要(気候関連のみ)
対象事業 | 投融資方針 |
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石炭火力発電の新規建設 および既存設備の拡張事業 |
当該事業を資金使途とする投融資等を禁止します。 ただし、債券/株式発行にかかる引受について、2050年までの温室効果ガス排出量のネットゼロ目標を公表している発行体やパリ協定の目標達成に整合的な最新技術を使用する当該事業に限って、個別に検討する場合があります。 |
パーム油農園開発事業 | 当該事業への投融資等に際しては、乱開発により野生生物の生息地が失われることで生物多様性の喪失に繋がっていないか、地元住民との土地紛争や児童労働、強制労働、人身取引など人権侵害が起きていないか、またそれらに対する適切な対策が講じられているか等に留意し、ESGデュー・デリジェンスを実施の上、その判断に活用します。 なお、投融資等を実施する場合、当該事業者に対しては、パーム油の国際的な認証制度であるRSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil:持続可能なパーム油のための円卓会議)の取得状況を確認し、未取得の場合には取得を推奨します。また、NDPE(No Deforestation, No Peat and No Exploitation:森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ)等の環境・人権方針の策定を推奨します。 また、当該事業者に対する新規の投融資については、そのサプライチェーンにおいても、同様の取組みがなされるよう、サプライチェーン管理の強化、およびトレーサビリティの向上を推奨します。 |
森林破壊を伴う事業 | 当該事業への投融資等に際しては、生態系の破壊による環境への負の影響が生じないよう適切な対策が講じられているか、また違法な伐採が行われていないか等に留意し、ESGデュー・デリジェンスを実施の上、その判断に活用します。 なお、投融資等を実施する場合、当該事業者に対しては、国際的な森林認証制度であるFSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)もしくは同等の認証の取得や、NDPE等の環境・人権方針の策定を推奨します。 また、当該事業者に対する新規の投融資については、そのサプライチェーンにおいても、同様の取組みがなされるよう、サプライチェーン管理の強化、およびトレーサビリティの向上を推奨します。 |
炭鉱採掘事業 | 当該事業において、山頂除去採掘(Mountain Top Removal:MTR)方式で行う事業や新規の一般炭採掘事業を資金使途とする投融資等を禁止します。 また、当該事業への投融資等に際しては、落盤事故、出水事故、ガス爆発や、違法労働等の人権侵害が発生しないよう、労働安全や衛生環境の確保に関して適切な対策が講じられているか等に留意し、ESGデュー・デリジェンスを実施の上、その判断に活用します。 |
大規模な水力発電の建設事業 | 当該事業への投融資等に際しては、ダム建設に伴う環境や生態系の破壊および地域住民への負の影響に対して適切な対策が講じられているか等に留意し、ESGデュー・デリジェンスを実施の上、その判断に活用します。 |
石油・ガス開発事業 | 当該事業への投融資等に際しては、環境や生態系および地域社会への影響に対して適切な対策が講じられているか等に留意し、ESGデュー・デリジェンスを実施の上、その判断に活用します。特に、北極圏での開発事業、オイルサンドやシェールオイル・ガスの開発事業、パイプライン事業への投融資等については、環境や社会に大きな負の影響を与える可能性があるため、慎重に判断します。 |