リスク管理

TCFD提言の「リスク管理」では、どのように気候関連のリスクを特定・評価し、管理するかについての開示が推奨されており、当社グループはこれに沿った情報開示を進めています。

気候変動リスクの管理

リスク管理の概要

当社グループは、気候変動リスクを含む各種リスクを適切に特定・評価し効果的に管理することが重要であると認識しています。健全な財務構造や収益構造を維持し、短期のみならず、気候変動リスクのような中長期で顕在化しうるリスクも適切に管理することにより、企業価値の持続的な向上を図ります。

グループ各社は、グループ本社のリスク管理の基本方針に基づき、リスクマネジメント部およびリスク分掌部署においてリスクをモニタリングしています。リスク管理の基本方針は、「リスク管理規程」として取締役会において審議・決定します。また、気候関連課題を含むリスク課題については、執行役会の分科会であるグループリスクマネジメント会議に報告し、審議・決定しています。

リスクアペタイト・フレームワークにおける気候変動リスク

当社グループは、グローバル金融機関として事業戦略と整合的なリスクテイクの方針を定め、リスクガバナンスを強化するため、リスクアペタイト・フレームワーク(RAF)を導入しています(図表4-1)。RAFとは、収益目標や事業戦略達成のために進んで受け入れるべきリスクの種類と総量をリスクアペタイトとして定め、リスクテイク方針全般に関する社内の共通言語として用いる経営管理の枠組みです。RAFは、「リスクアペタイト・ステートメント」として文書化の上、取締役会において審議・決定し、年2回見直しを行います。「リスクアペタイト・ステートメント」には、2021年度より気候変動リスクを取り上げています。これにより、気候関連のリスクについて、そのリスクプロファイルに応じて適切に特定・評価し効果的に管理していきます。

図表4-1 リスクアペタイト・フレームワークの概念図

図表4-1 リスクアペタイト・フレームワークの概念図

トップリスク管理における気候変動リスク

リスク事象のうち、当社グループの事業の性質に鑑みて特に注意すべきものをトップリスクとして選定し管理しています。トップリスクの選定にあたって、経営陣が広範なリスクを認識・議論できるように、社内外より収集したリスク事象をもとに、関連部署が整理・抽出したリスク事象をトップリスクの候補として「見える化」します。そのうえで当社グループの取締役・執行役が、当社グループの業績に与える影響度と当該リスク事象の発生可能性からフォワードルッキングに評価し、当該候補からトップリスクを抽出し選定します。当社グループは気候変動が金融機関経営や金融システムの安定に及ぼす影響への重要性が高まっていることを踏まえて、気候変動リスクを「トップリスク」に選定しています(図表4-2)。

図表4-2 トップリスク一覧

リスク事象 具体例
国際紛争・対立の深刻化 ロシア・ウクライナ紛争、米中対立激化(台湾有事)等
金融危機の再来
日本の財政不安による国債格下げや円資産の暴落
米国のスタグフレーションリスク(インフレと景気後退の同時進行)
中国の景気後退
DX(デジタルトランスフォーメーション)への不十分な対応 DXの対応が不十分であることによる競争力の低下
オペレーショナル・レジリエンスへの不十分な対応 自然災害やサイバー攻撃、システム障害等に対するレジリエンスが不十分なことにより、顧客へ適切なサービスを提供できず、当社のレピュテーションが毀損
気候変動 気候変動に伴う保有資産の価値低下及び売却機会の減少
大規模地震・水害 災害に伴う各種コストの増加
投資先の業績悪化・資産価値毀損
サイバー攻撃
システム障害
コンプライアンスリスク マネー・ローンダリング、インサイダー取引を含む役職員による不適切な行為等
情報セキュリティリスク 重大な情報漏えい等

当社グループのリスク管理の枠組みにおける気候変動リスクの管理

事業においては、多種多様なリスクが存在します。当社グループは、自己勘定を活用して一時的に販売目的の商品ポジションを保有し、お客様への商品提供を行うため、外貨を含めた流動性リスク、相場変動に起因する市場リスク、取引先や発行体に対する信用リスク、ヘッジが機能しないリスクのほか、業務を執行する上で必然的に発生するオペレーショナル・リスクや意思決定にモデルを活用することによるモデルリスク等が生じます。また、ハイブリッド戦略による成長投資を実行することに伴い、投資先の業績や信用状態の悪化、市場環境の変化等に起因する投資リスクも発生します。そのため、フォワードルッキングな視点でグループ内における資本や流動性に与える影響を計測する統合リスク管理を行っています。

リスクアペタイト・ステートメントにおいて市場リスク、信用リスク、流動性リスク等に加えて気候変動リスクも定めています。気候変動リスクは気候現象のみならず、政治・社会の対応や経済構造など多くの要素が関係し、相互に影響を及ぼし合います。例えば、経済全体の変化を受けた株式や金利などへの影響(市場リスク)、脱炭素への移行などの気候変動対応に伴う企業の事業や財務状況への影響(信用リスク)、当社グループの気候変動対応に対する遅延などによる資金調達環境への影響(流動性リスク)など、気候変動リスクは既存の各リスクを発生または増幅させる要因となります。このため、既存のリスク管理の枠組みの中で気候変動リスクの影響を考慮できるように体制を継続的に整備していきます。

図表4-3 リスク管理の体制

図表4-3 リスク管理の体制

気候変動リスクに関わる投融資等の対応

当社グループは、「企業理念」「環境基本方針」「人権方針」において、環境や人権に配慮した対応の考え方を示しています(図表4-4)。さらに、投融資等に係る気候変動リスクの管理を強化する一環として、2021年6月には「環境・社会関連ポリシーフレームワーク」を策定・公表しています。本フレームワークでは、新規の投融資を対象とし、投融資を禁止する事業および留意する事業を定めています。さらに同年12月には、同リスクの管理体制を一層強化するため、新規の投融資に加えて当社グループの主要業務である債券/株式発行にかかる引受にまで対象を拡大しました。

  • 新規の投融資および債券/株式発行にかかる引受

本フレームワークは、自然環境・生態系の破壊など環境・社会に対して多大な負の影響を与える可能性がある事業に対して、リスクを認識し管理するための指針となります。禁止する事業として、ワシントン条約に違反する事業など4事業を、留意する事業には石炭火力発電の新規建設事業や森林破壊を伴う事業など9事業を定めています(図表4-4)。

これらの事業への投融資等に際しては、対象となる案件に対して初期的なESGデュー・デリジェンスを実施します。当該評価の結果、追加的な確認が必要と判断した場合には、踏み込んだ調査を行う強化ESGデュー・デリジェンスを実施し、投融資等の可否を判断します。当該案件の実施が当社グループの企業価値を大きく毀損する可能性がある場合には、さらに経営陣による追加協議を行い、最終的な投融資等の可否を判断します。

2022年12月に実施した直近の改定では、炭鉱採掘事業のポリシー厳格化を含めた見直しを行っています。今後もグローバルな動向を踏まえながら、定期的に見直しを行っていきます。

図表 4-4 環境・社会関連ポリシーフレームワーク

図表 4-4 環境・社会関連ポリシーフレームワーク

図表4-5 「環境・社会関連ポリシーフレームワーク」の概要(気候変動関連のみ)

出所:当社ウェブサイト
(URL: https://www.daiwa-grp.jp/sustainability/governance/espolicy.html

対象事業 方針(下線部分は、2022年12月に改定)
石炭火力発電の新規建設事業 当該事業を資金使途とする投融資等を禁止します。
ただし、債券/株式発行にかかる引受について、2050年までの温室効果ガス排出量のネットゼロ目標を公表している発行体やパリ協定の目標達成に整合的な最新技術を使用する当該事業に限って、個別に検討する場合があります。
パーム油農園開発事業 当該事業への投融資等に際しては、乱開発により野生生物の生息地が失われることで生物多様性の喪失に繋がっていないか、地元住民との土地紛争や児童労働、強制労働など人権侵害が起きていないか、またそれらに対する適切な対策が講じられているか等に留意し、ESGデュー・デリジェンスを実施の上、その判断に活用します。
なお、投融資等を実施する場合、当該事業者に対しては、パーム油の国際的な認証制度であるRSPO (Roundtable on Sustainable Palm Oil:持続可能なパーム油のための円卓会議)の取得状況を確認し、未取得の場合には取得を推奨します。また、NDPE(No Deforestation, No Peat and No Exploitation:森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ)等の環境・人権方針の策定を推奨します。
森林破壊を伴う事業 当該事業への投融資等に際しては、生態系の破壊による環境への負の影響が生じないよう適切な対策が講じられているか、また違法な伐採が行われていないか等に留意し、ESGデュー・デリジェンスを実施の上、その判断に活用します。
なお、投融資等を実施する場合、当該事業者に対しては、国際的な森林認証制度であるFSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)もしくは同等の認証の取得や、NDPE等の環境・人権方針の策定を推奨します。
炭鉱採掘事業 当該事業において、山頂除去採掘(Mountain Top Removal:MTR)方式で行う事業や新規の一般炭採掘事業を資金使途とする投融資等を禁止します。
また、当該事業への投融資等に際しては、落盤事故、出水事故、ガス爆発や、違法労働等の人権侵害が発生しないよう、労働安全や衛生環境の確保に関して適切な対策が講じられているか等に留意し、ESGデュー・デリジェンスを実施の上、その判断に活用します。
石油・ガス開発事業 当該事業への投融資等に際しては、環境や生態系および地域社会への影響に対して適切な対策が講じられているか等に留意し、ESGデュー・デリジェンスを実施の上、その判断に活用します。特に、北極圏での開発事業、オイルサンドやシェールオイル・ガスの開発事業、パイプライン事業への投融資等については、環境や社会に大きな負の影響を与える可能性があるため、慎重に判断します。