アセットマネージャーとしての対応

当社のアセット・マネジメント部門は、証券アセット・マネジメントを担う大和アセットマネジメントと不動産アセット・マネジメントを担う大和リアル・エステート・アセット・マネジメント(および同社が運用する大和証券オフィス投資法人など)を有しています。前者は2020年12月に、後者は2021年12月にTCFD提言への賛同を表明し、両社とも資産運用業務を通じて脱炭素社会の実現を目指しています。

大和アセットマネジメント

大和アセットマネジメント(以下、同社)は、ファンドごとや各運用資産のGHG排出関連指標としてポートフォリオのGHG総排出量、カーボンフットプリント※1、カーボンインテンシティ※2などをモニタリング・分析しています。これらのデータや独自のリサーチに基づいた企業とのエンゲージメント活動によって企業の脱炭素化を促進しています。

  • ※1ポートフォリオの規模(投資額百万USD換算)当たりの排出量をみる指標
  • ※2投資先企業の売上規模(売上高百万USD換算)当たりの排出量をみる指標

国内社債のカーボンフットプリントや加重平均カーボンインテンシティがベンチマークと比較して大きくなっていますが、これは、ベンチマークより高いウェイトで電力会社の社債をポートフォリオに組み入れていることによります。また、TCFDが開示を推奨しているScope3についても、上流と下流で分類し、それぞれ該当する排出量を今回初めて算出し、記載しました。投資先企業の総炭素排出量をScope1・2・3、特に3を細かく把握することで、先の電力会社含め、投資先企業とのエンゲージメント活動等に活用し、サプライチェーン全体の脱炭素化を促進していきたいと考えています。詳細は、同社の「Sustainability Report 2022」をご覧ください。

図表6-1 ポートフォリオの総炭素排出量

(CO2換算トン)

Scope1、2
  当社 ベンチマーク 差異
国内株式 5,494,325 6,367,039 -14%
海外株式 355,353 360,370 -1%
国内社債 441,007 182,496 142%
海外社債 70,686 186,784 -62%
合計 6,361,371 7,096,689 -10%
GHG総排出量(Scope1、2、3合計)
GHG総排出量(Scope1、2、3合計)

(CO2換算トン)

Scope3 上流
  当社 ベンチマーク 差異
国内株式 16,535,670 17,761,710 -7%
海外株式 499,761 537,468 -7%
国内社債 421,074 334,030 26%
海外社債 131,768 294,762 -55%
合計 17,588,273 18,927,970 -7%

(CO2換算トン)

Scope3 下流
  当社 ベンチマーク 差異
国内株式 28,869,507 33,262,327 -13%
海外株式 1,487,004 1,608,504 -8%
国内社債 479,146 560,670 -15%
海外社債 421,495 732,747 -42%
合計 31,257,152 36,164,248 -14%

※ベンチマーク
国内株式:TOPIX(配当込み)、海外株式: MSCI ACWI ex Japan Index、国内社債: Bloomberg Asian-Pacific Japan Corporate TR Index Value Unhedged JPY、
海外社債: Bloomberg Global Aggregate ex-JPY- Corporate TR Index Unhedged USD

出所:大和アセットマネジメント「Sustainability Report 2022

図表6-2 ポートフォリオのカーボンフットプリント(Scope1・2)

図表6-2 ポートフォリオのカーボンフットプリント(Scope1・2)

出所:大和アセットマネジメント「Sustainability Report 2022

図表6-3 ポートフォリオの加重平均カーボンインテンシティ(Scope1・2)

図表6-3 ポートフォリオの加重平均カーボンインテンシティ(Scope1・2)
  • ベンチマークは前項のポートフォリオの総炭素排出量と同様

出所:大和アセットマネジメント「Sustainability Report 2022

運用商品

同社では、脱炭素社会の実現を目指す各種投資信託を提供しています。例えば、ファンドとしてのカーボンゼロを目指す「脱炭素テクノロジー株式ファンド」においては、信託報酬の一部を認定NPO法人環境リレーションズ研究所へ寄付し、「プレゼントツリー」プロジェクトを通じて植樹を行います。

エンゲージメント

同社では、従前より投資先企業に求めるESGの重要課題(マテリアリティ)を開示しており、その中で気候変動も掲げています。気候変動の具体的な注目点としては、「GHG排出」「気候変動リスク対応」「エネルギー転換」を挙げています。「企業等との建設的な対話の方針」「当社が求める投資先企業のあるべき経営の姿(ベストプラクティス)」を公表しています。

投資先企業とのエンゲージメント活動の一環として、環境負荷の軽減が課題である企業に対し、問題点の共有および、環境経営の推進、情報開示の改善といった解決策に関する議論を行い、リスクの低減を目指しています。投資先企業のGHG排出量等主要指標の分析やシナリオ分析を行うことで、気候関連のリスクと機会を把握し、エンゲージメントに活用しています。2022年は1,138社とエンゲージメントを実施し、テーマ別の内訳では、ES(G)に関するものが約35%を占めました。

図表6-4 当社が求める投資先企業のあるべき経営の姿(抜粋)

重視する課題 ベストプラクティス
気候変動
  • TCFDの枠組みに沿って様々な気候変動シナリオを想定し分析することで、移行リスク、物理的リスク、事業機会が特定されている。
  • GHG排出量や原単位の実態および、想定されるリスクと機会を定量的に把握する。
  • 2050年カーボンニュートラル達成までの具体的なロードマップ、マイルストーンを策定し、その進捗状況について毎年説明する。なお2030年の目標として、当社のNZAMI中間目標とも整合する50%以上の削減を目指すことが望ましい。
  • リスク・機会の両面を取り込んだ事業戦略を策定・実行し、活動状況の総括・評価を実施する。

図表6-5 大和アセットマネジメントの対話の事例

エンゲージメント事例 気候変動(A社)
課題 アルミ再生地金の生産時のCO2排出量は新地金の約3%であり、排出量を劇的に低減する効果がある。リサイクル特性からサプライチェーンの様々なパートナーとの協業によるスクラップ活用の最大化が求められる。同社も30年度目標として取り組み強化を掲げているが、現状のリサイクル比率等の開示や将来の目標設定がなされていない。
課題の背景 主要用途である製缶向けのアルミ地金は、国内のみ製缶メーカーから支給材契約となっており独自では進めにくい点がある。また、蓋とボディ材の合金が違うなどのリサイクルが難しい点やスクラップの調達にも限りがある。
解決に向けて
取り組むべき事項
製缶メーカーの支給材契約から自社で原材料調達ができる契約形態への変更が必要である。また、再生地金調達強化のため、アルミ2次合金メーカーとの関係強化や研究開発を進めることが求められる。
課題解決後の姿 契約形態の変更により原材料調達面で付加価値を獲得でき、国内事業の収益性が向上する。リサイクル比率の向上とともに環境面から他素材に比べて環境優位性が高まる。ペットボトルなど他素材からのアルミ化が進み、同社の生産販売量が増加する好循環が期待できる。
事業会社の反応 現状のリサイクル比率の開示や目標設定については早期に対応し開示していく方針である。支給材契約変更については収益面でのメリットが大きく、客先との交渉を進めていきたい。

出所:大和アセットマネジメント「Sustainability Report 2022

大和リアル・エステート・アセット・マネジメント

大和リアル・エステート・アセット・マネジメント(以下、同社)は、上場REITである大和証券オフィス投資法人、大和証券リビング投資法人および私募REITの不動産運用を行っています。以下、同社の「Sustainability Report 2023」(2023年7月)からの抜粋です。

ガバナンス

同社は、「気候変動・レジリエンスポリシー」に従い、気候関連課題に係る執行責任者(サステナビリティ推進に係る部署の部長)は、サステナビリティ推進委員会において、気候変動による影響の識別・評価、リスクと機会の管理、適応と緩和に係る取組みの進捗状況、指標と目標の設定等の気候変動対応に関する事項を、気候関連課題に係る最高責任者(代表取締役社長)に対して定期的に報告します。サステナビリティ推進委員会において、気候変動関連の各課題について審議・検討した上で、気候関連課題に係る最高責任者が最終的に意思決定を行います。このような体制のもと、気候関連課題は代表取締役社長により監督されています。

戦略

同社は、気候変動が各投資法人に与えるリスクと機会を識別し、事業への財務的影響を評価するために、国際機関等が公表している将来的な気候予測を主な情報源として参照しながら、「1.5℃/2℃シナリオ」「4℃シナリオ」という2つのシナリオを用いて、定性的な分析を実施しました。

識別したリスクと機会の財務的影響を短期、中期、長期の時間軸に分け、各投資法人に対する影響の相対的な大きさを検証しました。財務的影響が一定程度認められる中期、長期の気候変動リスクは以下のとおりです。

図表6-6 シナリオ分析による財務的影響(大和証券オフィス投資法人)

分類 不動産運用における
リスク・機会の要因
財務への潜在的な影響 区分 財務的影響 対応策
4℃ 1.5℃/2℃
中期 長期 中期 長期
移行リスクと機会 政策 / 法規制 炭素税導入によるGHG排出量に対する規制強化
  • 炭素税導入に伴い、物件のGHG排出量に応じて税負担が増加
リスク
  • エネルギー管理システムや再生可能エネルギーの導入
  • 保有物件のエネルギー消費量/GHG排出量の計画的な低減
  • 戦略的な物件入替/物件改修に伴うGHG排出量の改善
  • 環境認証取得比率の向上
省エネ基準の強化、排出量報告義務の発生
  • 省エネ基準引き上げに伴う改修費用の増加
  • 排出量報告に関連した事業経費の増加
リスク
法規制に適合した物件の競争力向上
  • 環境性能に優れた物件の保有に伴い、賃料収入が増加
  • エネルギー効率改善に伴う水道光熱費の抑制
機会
技術 省エネ・再エネ技術の高度化・普及
  • 新技術導入に伴う改修費用の増加
リスク
  • 先進技術の導入
  • 計画的な改修工事の実施
  • 再生可能エネルギー由来の電力切替推進
  • 省エネ性能向上に伴う水光熱費の削減
機会
市場 物件の環境性能による資産価値の変動
  • 環境認証取得比率に伴い、保有物件の資産価値が変動
  • 環境性能に優れた物件の保有割合に応じて、賃料収入が変動
リスク
  • 環境認証取得比率の向上
  • 再生可能エネルギー由来の電力切替推進
  • 保有物件の環境性能に関する十分な情報開示
機会
投資家やレンダーの投融資スタンスの変化
  • ESG意識が高い投資家やレンダーからの評判の変動
  • ESG意識が高いテナントの入退去需要の変動
  • 金融機関等からの資金調達条件の改善/悪化
リスク
  • 気候変動を含むESG関連情報の適切な情報開示
  • 外部機関によるESG評価の向上
  • サステナビリティファイナンスの活用による資金調達コスト低減
機会
評判 投資家や顧客からの評判低下
  • 投資口価格の下落/ESG格付評価の低下
  • 環境パフォーマンス/レジリエンスの低い物件の収益性低下
リスク
  • ESG分野におけるステークホルダーとのエンゲージメント強化
  • 継続的な環境パフォーマンス改善/環境認証の継続取得
物理的リスク 急性 風水害の激甚化による損害の増加
  • 修繕費、保険料の増加
  • 稼働率低下による賃料収入の減少
  • 営業機会の損失/業務継続性に対するリスク増加
  • 保有物件の浸水防止、損傷、損壊等に備えるための改修費の増加
リスク
  • ハザードマップ等の活用によるリスク把握
  • レジリエンスの高い物件の保有
  • 高効率空調機器への設備更新、エネルギー管理システム導入
  • グリーンリース等のテナントとの協働による省エネ対応実施
  • BCP対応強化
  • 保有物件での緑化推進
慢性 平均気温上昇/海面上昇による被害の増加 リスク

図表6-7 シナリオ分析による財務的影響(大和証券リビング投資法人)

分類 不動産運用における
リスク・機会の要因
財務への潜在的な影響 区分 財務的影響 対応策
4℃ 1.5℃/2℃
中期 長期 中期 長期
移行リスクと機会 政策 / 法規制 炭素税導入によるGHG排出量に対する規制強化
  • 炭素税導入に伴い、物件のGHG排出量に応じて税負担が増加
リスク
  • エネルギー管理システムや再生可能エネルギーの導入
  • 保有物件のエネルギー消費量/GHG排出量の計画的な低減
  • 戦略的な物件入替/物件改修に伴うGHG排出量の改善
  • 環境認証取得比率の向上
省エネ基準の強化、排出量報告義務の発生
  • 省エネ基準引き上げに伴う改修費用の増加
  • 排出量報告に関連した事業経費の増加
リスク
法規制に適合した物件の競争力向上
  • 環境性能に優れた物件の保有に伴い、賃料収入が増加
  • エネルギー効率改善に伴う水道光熱費の抑制
機会
技術 省エネ・再エネ技術の高度化・普及
  • 新技術導入に伴う改修費用の増加
リスク
  • 先進技術の導入
  • 計画的な改修工事の実施
  • 再生可能エネルギー由来の電力切替推進
  • 省エネ性能向上に伴う水光熱費の削減
機会
市場 物件の環境性能による資産価値の変動
  • 環境認証取得比率に伴い、保有物件の資産価値が変動
  • 環境性能に優れた物件の保有割合に応じて、賃料収入が変動
リスク
  • 環境認証取得比率の向上
  • 再生可能エネルギー由来の電力切替推進
  • 保有物件の環境性能に関する十分な情報開示
  • 環境性能に優れた物件の保有に伴い、保有物件の資産価値や
    賃料収入が増加
機会
投資家やレンダーの投融資スタンスの変化
  • ESG意識が高い投資家やレンダーからの評判の変動
  • ESG意識が高いテナントの入退去需要の変動
  • 金融機関等からの資金調達条件の改善/悪化
リスク
  • 気候変動を含むESG関連情報の適切な情報開示
  • 外部機関によるESG評価の向上
  • サステナビリティファイナンスの活用による資金調達コスト低減
機会
評判 投資家や顧客からの評判低下
  • 投資口価格の下落/ESG格付評価の低下
  • 環境パフォーマンス/レジリエンスの低い物件の収益性低下
リスク
  • 気候変動を含むESG関連情報の適切な開示
  • ESG分野におけるステークホルダーとのエンゲージメント強化
  • 継続的な環境パフォーマンス改善/環境認証の継続取得
物理的リスク 急性 風水害の激甚化による損害の増加
  • 修繕費、保険料の増加
  • 稼働率低下による賃料収入の減少
  • 営業機会の損失/業務継続性に対するリスク増加
  • 保有物件の浸水防止、損傷、損壊等に備えるための改修費の増加
リスク
  • ハザードマップ等の活用によるリスク把握
  • レジリエンスの高い物件の保有
  • 高効率空調機器への設備更新、エネルギー管理システム導入
  • グリーンリース等のテナントとの協働による省エネ対応実施
  • BCP対応強化
  • 保有物件での緑化推進
慢性 平均気温上昇/海面上昇による被害の増加 リスク

リスク管理

各投資法人は、気候変動リスクと機会が投資法人の経営活動、戦略、財務計画等に与える影響を識別・評価・管理するためのプロセスを「気候変動・レジリエンスポリシー」に定めています。

気候変動課題に係る執行責任者は、原則として年1回、気候関連リスク・機会の整理を行い、サステナビリティ推進委員会に対して進捗報告を行います。

サステナビリティ推進委員会では、各投資法人の運用に影響を与える事業・財務計画上に重要な気候変動リスクと機会を継続的に識別・評価・管理しており、上記報告を元に事業戦略上の優先課題を整理します。

気候関連課題に係る最高責任者は、サステナビリティ推進委員会で審議された重要な優先順位の高い気候関連リスクを既存の全社リスク管理プログラムにおいても考慮するよう指示し、リスク識別・評価・管理プロセスの統合を図ります。

指標と目標

各投資法人は、脱炭素社会への移行を機会と捉え、気候変動リスク・機会の管理プロセスにおける主なモニタリング指標として、以下を目標KPI(重要指標)として設定しています。

図表6-8 指標と目標(大和証券オフィス投資法人)

目標KPI
CO2排出量削減 中期目標(2030年度)
原単位ベースで2013年度対比46%削減
長期目標(2050年度)
カーボンニュートラル達成

図表6-9 指標と目標(大和証券リビング投資法人)

目標KPI
環境認証取得比率 中期目標
ポートフォリオ全体の環境認証取得比率を20.0%以上