自然資本・生物多様性への対応 ~TNFDフレームワークに基づく開示~

1. はじめに

大和証券グループは2021年5月、2030年に目指すべき姿として、経営ビジョン「2030Vision」を策定しました。「金融・資本市場を通じ、豊かな未来を創造する」をコアコンセプトに、金融・資本市場のプロフェッショナルとして、質の高いソリューションを提供するとともに、社内外のイノベーション促進、脱炭素社会への貢献等を通じ、社会の「豊かな未来」の実現に貢献します。

2030Vision

「2030Vision」では、「グリーン&ソーシャル」を経営戦略上のマテリアリティの1つとしており、サステナブルファイナンスをはじめとする社会課題の解決に資する金融商品・サービスの提供に注力します。

自然資本への対応については、優先的に取り組むべき社会課題であると同時に、金融機関として、ネイチャーポジティブ実現に向けて取り組む企業をサポートする機会と認識しています。このような認識のもと、様々なビジネスを通じてネイチャーポジティブ経済への移行を推進すべく、2023年度に自然資本関連情報の開示に向けた分析を開始し、TNFDフレームワークを参考に、情報開示を進めています。

これまでの歩み

2018年
  • SDGs推進委員会(現 サステナビリティ推進委員会)の設置
2020年
  • クリーンテック株式ファンド(愛称:みらいEarth)の設定・運用開始
2021年
  • 経営ビジョン「2030Vision」の策定
  • 脱炭素テクノロジー株式ファンド(愛称:カーボンZERO)の設定・運用開始
2022年
  • TNFDへの賛同表明、「TNFDフォーラム」参画
2023年
  • 世界初のサムライブルーボンドである、インドネシア共和国サムライ債を引受
  • 「TNFD Adopter」登録
2024年
  • 海運業界として世界初の国際的なガイダンスに基づく、商船三井のブルーボンドを引受
  • 中期経営計画 “Passion for the Best”2026の策定
  • 経営ビジョン「2030Vision」のアップデート
  • 大和証券グループ本社として初めてのTNFD開示を実施
2025年
  • 自然資本と当社グループの企業価値との関連性を整理し、TNFDフレームワークに沿った開示を実施

2. ガバナンス

① 監督体制

サステナビリティ課題に対するガバナンス体制

自然資本関連を含むサステナビリティ課題への対応については、取締役会が監督しています。取締役会は、取締役会規則において決議事項として定められた、経営の中核となる事項や取締役会が重要と認めた事項について決定する機関であり、サステナビリティ推進委員会および執行役会等で議論した自然資本関連の課題と対応についても、同規則に則り報告を受け議論を行っています。サステナビリティに関する基本方針を含む「2030Vision」に関しては、中期経営計画とあわせて取締役会で決定しています。

2023年度の取締役会で決定された中期経営計画“Passion for the Best” 2026(「2030Vision」の改定を含む)では、サステナビリティもトピックとして取り上げられました。同計画で定められたサステナビリティKPIに関しては、その後の取締役会で、決算の承認や中期経営計画のレビューの際に確認等を行っています。その他、これまでに、生物多様性保全への配慮を含む環境・社会関連ポリシーフレームワーク(投融資方針)の公表や改定等も決定しています。

自然資本に関する機運の高まりを受け、2024年度の取締役会では、大和証券グループ本社として初めてTNFD開示が報告されました。また、2025年度の取締役会においても、自然資本と当社グループの企業価値向上とのつながりを含め、TNFDフレームワークを踏まえた開示の内容等について報告されています。

社外取締役からの主なコメント

  • ESGに対する意見や議論、国際的なサステナビリティ開示基準化の動向等を含め、外部環境を注視しながら対応していくべき
  • 日本企業は自然資本関連情報の開示が積極的であり、国内のネイチャーファイナンス拡大に期待している

また、サステナビリティ課題への取組みに関する役員のインセンティブを強化するため、サステナビリティKPIを業績連動型報酬の評価体系に組込んでいます。自然資本に関連するKPIとしては、SDGs関連債リーグテーブル・自社のGHG排出量・投融資ポートフォリオのGHG排出量が含まれています。業績連動型報酬を算定するための業績評価は、財務情報を用いた業績KPIに基づく財務業績評価に、業績KPI以外のKPIを総合的に評価したクオリティ評価を反映します。財務業績評価及びクオリティ評価は、報酬委員会にて決定しています。業績連動型報酬は、役職ごとに定めた基準額に業績評価を掛け合わせ、個人の貢献度合いを反映のうえ算定します。

中期経営計画“Passion for the Best”2026における数値目標及び2024年度実績

  2026年度
目標
2024年度
実績
全社 WM AM GM&IB
業績 経常利益 2,400億円以上 2,247億円
ROE 10%程度 9.8%
ベース利益※1 1,500億円 1,375億円
お客様資産 預り資産※2 120兆円 90.2兆円
ストック関連資産※3 13.6兆円 9.8兆円
AM部門AUM※4 44兆円 34.9兆円
デジタル デジタル案件価値創出件数※5 10件 2件
デジタル案件トライアル件数※6 50件 45件
サステナビリティ SDGs関連債リーグテーブル 2位以内 1位
エンゲージメントサービススコア 80%以上 81%
自社の温室効果ガス排出量※7 FY2030 ネットゼロ 2,725
t-CO2e
投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量※7 FY2030 186~255
g-CO2e/kWh
243※8
g-CO2e/kWh
  • ※1ベース利益は、WM・AM証券・不動産AMの経常利益額合計。このうちWMは、旧リテール、大和ネクスト銀行、大和コネクト証券、Fintertechの経常利益の単純合算
  • ※2預り資産残高は、大和証券の預り資産残高
  • ※3ストック関連資産残高は、投信、ファンドラップ、外債預金
  • ※4AM部門AUMは大和アセットマネジメント、大和ファンド・コンサルティング、大和リアル・エステート・アセット・マネジメント、サムティ・レジデンシャル投資法人、大和PIパートナーズ、大和エナジー・インフラ、大和企業投資のAUM合計
  • ※5デジタル案件価値創出件数は、新しいデジタル技術を活用している案件で、かつ新規性があるもしくはビジネス変革に資する案件をカウント
  • ※6デジタル案件トライアル件数は、DX案件とAI・データサイエンス案件のトライアル件数をカウント
  • ※7自社の温室効果ガス排出量はScope1+Scope2の合計(マーケット基準)。投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量の対象は、電力セクターへのプロジェクトファイナンス。一部推計値を含む
  • ※8FY2023実績

業績連動型報酬の評価体系及び2024年度の報酬の額

財務業績評価
(100)
± クオリティ評価
(-20~+20)
カテゴリ KPI 配点 基準値 KPI 基準値 実績値
業績 連結ROE 40 10% 9.8%
連結経常利益 40 2,400億円 2,247億円
ベース利益 20 1,500億円 1,375億円
お客様資産 預り資産 120兆円 90.2兆円
ストック関連資産 13.6兆円 9.8兆円
AM部門AUM 44兆円 34.9兆円
デジタル デジタル案件価値創出件数 10件 2件
デジタル案件トライアル件数 50件 45件
サステナビリティ SDGs関連債リーグテーブル 2位以内 1位
エンゲージメントサーベイスコア 80%以上 81%
自社の温室効果ガス排出量 2030年度ネットゼロ -
投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量 186~255g-CO2e/kWh -

取締役及び執行役の報酬等の額

役員区分 報酬等の総額
(百万円)
報酬等の種類別の総額(百万円) 対象となる
役員の員数
(名)
基本報酬 株式報酬I 業績連動型報酬 退職
慰労金
金銭 株式報酬II 株式報酬III
取締役 66 57 8 - - - - 3
執行役 1,777 517 157 852 182 67 - 12
社外取締役 139 130 8 - - - - 8
  • 取締役と執行役の兼任者(5名)の報酬は、執行役に対する報酬等の支給額の欄に記載
  • 業績連動型報酬は、当期分として支給予定の額を記載

② 執行体制

執行役会

自然資本関連を含むサステナビリティ関連の戦略及び方針については、必要に応じて執行役会で審議・議論の上、取締役会へ報告を行っています。2025年度の執行役会では、自然資本・生物多様性と当社グループの企業価値向上とのつながりを含め、TNFDフレームワークを踏まえた開示の内容等について報告・議論を行い、取締役会へも報告しました。

サステナビリティ推進委員会

自然資本関連を含むサステナビリティに関する戦略及び方針について、代表執行役社長CEOを委員長とするサステナビリティ推進委員会にて議論を行っています。同委員会には、取締役会で承認された執行役規程に基づきサステナビリティ推進を統括するサステナビリティ担当や、複数の社内取締役を含む役員、さらにサステナビリティの主要テーマに専門的知見を有する社外委員3名が参加しています。同委員会での議論内容については、適宜、執行役会に報告されます。

社外委員のサステナビリティ関連の主な専門内容
委員 所属・肩書 主な専門分野
有村 俊秀
  • 早稲田大学 政治経済学術院 教授
  • 経済産業研究所ファカルティフェロー
  • 環境経済学
  • エネルギー政策
  • カーボンプライシング(CP)
岸上 有沙
  • En-CycleS(持続可能な対話の輪)独立コンサルタント
  • 日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)理事
  • サステナブル投資
  • 企業との対話(エンゲージメント)
高橋 大祐
  • 真和総合法律事務所パートナー弁護士
  • ビジネスと人権
  • 環境法務
  • グローバルコンプライアンス

社外委員からの主なコメント

  • 大和証券グループでは、ネイチャーポジティブ実現に向けたビジネス機会につながる取組みも既に行っているため、目標として、自然資本により特化したKPIの設定を検討するとよい
  • 自然資本の毀損は地域住民や先住民等の人権にも影響することから、これらの当事者やNGO等とのステークホルダー・エンゲージメントについて開示することも考えられる
  • 自然資本関連リスクの分析では、将来的なリスク・機会も踏まえて、フォワード・ルッキングな分析をするとよい
  • 環境破壊を伴う再エネ開発等は注意が必要であり、再エネ拡充においては生態系への配慮が重要

グループリスクマネジメント会議

現在、気候変動を含むリスク管理に係る方針や施策については、執行役会の分科会であり、代表執行役社長CEO を議長とし、リスク管理の責任者である最高リスク管理責任者(CRO:Chief Risk Officer)が出席するグループリスクマネジメント会議において議論しています。今後、自然資本を議題として取り上げていくことも検討していきます。

グループ横断的ワーキンググループ

グループ横断的にサステナビリティを推進する体制として、大和証券各本部・主要なグループ会社においてサステナビリティ責任者を設け、かかる責任者のもとで、サステナビリティKPI のモニタリングやサステナビリティ関連ビジネスの推進を行うワーキンググループ(WG)を設置しています。同WG で議論された内容については、適宜、サステナビリティ推進委員会に報告する体制となっています。

自然資本を含むサステナビリティ関連のリスク及び機会の特定プロセスとして、これら各WGでの意見はサステナビリティ推進委員会に報告されています。2024年度は、サステナブルビジネスWGメンバーがサステナビリティ担当や各サステナビリティ責任者と、サステナビリティKPIの進捗状況や取組みを踏まえ、次年度に向けた課題の共有と対応策・改善案について議論しました。

グループ横断的ワーキンググループ

名称 概要
サステナビリティ担当 当社グループ全体のサステナビリティ関連ビジネスの推進及びサステナブル経営の基盤強化への取組みを統括
サステナビリティ責任者 当社グループ内の各組織(各本部・グループ会社)において、サステナビリティ関連ビジネスの推進及びKPIの進捗管理を実施
サステナブルビジネスWG サステナビリティ責任者のもとで、KPIのモニタリング、サステナビリティ関連ビジネスの進捗状況の把握、課題の洗い出し及びそれらの課題に対する施策を企画・実施
ESG対応WG 当社グループのESGに関する外部評価(投資家及び評価機関)を参考に、ESG対応を拡充・強化
Sustainability Advisory Group サステナビリティに精通した社内有識者が集まり、当社グループの課題や今後の対応を提言
サステナビリティ開示WG 部署横断の組織として、統合報告の観点からサステナビリティ情報開示の拡充を目指す
Scope3排出量モニタリングチーム 投融資ポートフォリオ等に係る排出量の計測及び目標設定を実施

3. 戦略

① 大和証券グループが考える自然資本・生物多様性

2022年12月の「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(GBF)採択後、2024年10月には生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)が開催されるなど、生物多様性の保全に向けた取組みを推進する国際的な議論が加速しています。

当社グループの事業活動を含む、社会・経済における企業活動は、自然資本に大きく依存するとともに影響も与えていることから、自然資本や生物多様性の毀損は、当社グループにとっても少なからずリスクであると認識しています。

一方で、ネイチャーポジティブ経済への移行によるビジネス機会の規模は、2030年時点で年間約47兆円とも推計されています。当社グループにおいても、様々なビジネスを通じてネイチャーポジティブ実現に向けた取組みを行う企業をサポートすることで、自社の企業価値を向上させるだけでなく、ネイチャーポジティブに貢献もできると考えています。

  • 世界経済フォーラム(2020年)による推計値を基に、環境省が試算

当社グループのビジネスと自然資本との関連性

当社グループの金融・資本市場における役割やビジネスを踏まえ、自然資本との関連性を下記の通り整理しました。

大和証券グループによる自然資本関連ビジネスの概念図。発行体・当社・投資家の関係と、資金調達や投融資、有価証券売買などを通じたネイチャーポジティブ実現の仕組みを示す。

② 自然資本への依存・影響の把握に向けて

自然資本の重要性や当社グループのビジネスとの関係性を踏まえ、今後適切なリスク管理の下でネイチャーポジティブに貢献していくことが当社グループの役割であると考えています。まずは、自然資本への依存・影響が相対的に大きいと考えられる事業やセクター等を把握し、今後の対応策を検討するため、2023年度にLEAP分析を開始しました。

当社グループにおけるLEAP分析について

自然資本との関係性の把握および優先セクターのスクリーニング(ENCOREによる分析)

当社グループにおける事業と自然資本との関係性を把握するため、ENCOREを用いて、引受先および一部の投資先を対象に分析しました。

①各セクターにおける自然資本への影響度を把握 ②各セクターの影響度および引受・投資割合との関係性を把握
セクター毎の特性(自然資本に対する一般的な影響度合い)
自然資本への影響度 / セクターごとの引受割合または投資割合
まず、ENCOREを用いて、セクターごとに、自然資本に対する影響度合いを確認しました。
その後、自然資本の特性ごとに影響度を数値化の上ヒートマップを作成しました。
引受および投資それぞれにおいて、①の影響度とセクターごとの割合の2軸で関係性を把握の上、
自然資本への影響度が大きい、かつ引受・投資における割合が一定基準を満たすセクターを、
優先セクターとしてスクリーニングしました。

自然資本への依存については、いずれのセクターも②で一定基準を下回ったことから、優先セクターの検討対象外とし、自然資本に対する影響に着目しました。その結果、「化学」「電気機器」「電気・ガス」の3セクターについて、自然資本に対する影響が特に大きい優先セクターであることが示唆されました。

なお、昨年度は初回の分析として試験的に実施したものであり、今後段階的に分析対象を拡充する予定です。

セクター毎の特性 & 各セクターにおけるリスクと機会
地域性を考慮した拠点評価(IBAT等による分析)

当社グループの直接操業先等について、自然資本との関連性が強い地域・拠点を把握するため、IBAT・Aqueduct※4等を用いてKBA※5および指定保護地域など(優先地域)との接点の把握・分析に着手しました。今後、より詳細な分析を行った上で、必要に応じて自然資本の維持・回復・創出に努めていきます。

  1. ※4Aqueduct:世界資源研究所(WRI)が世界の干ばつによる水不足リスクをマッピングしており、水ストレス(水需要の逼迫度合い)を評価できるツール
  2. ※5Key Biodiversity Area(KBA):生物多様性の保全上重要な地域で、保全すべき地域の特定や生物多様性への影響を可能な限り回避・軽減するために活用する地域情報

③ リスクと機会

LEAP分析の結果から、当社グループの主要ビジネスであるグローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング部門やアセットマネジメント部門が、優先セクターに該当する引受先や投資先のリスク・機会の影響を受けやすいと示唆されます。この分析結果と合わせて、自然資本と当社グループビジネスとの関連性も踏まえながら、当社グループにおけるリスクと機会について、下記の通り整理しています。

リスクまたは機会 引受先・投資先等におけるリスクまたは当社が提供できる機会 想定される当社ビジネスへの影響 当社収益への影響
リスク 物理的
リスク
自然災害等による自然資本の毀損に起因する操業
停止や事業計画の見直しに伴う、投資先の収益悪化
当社グループにおける
投資収益の悪化
収益低下
自然災害等による自然資本の毀損に伴う、引受先に
おける株式・債券の発行見直し
当社グループにおける
引受手数料等収入の減少
移行
リスク
引受先や投資先におけるネイチャーポジティブ実現への
取組みや情報開示への対応遅れ
当社グループにおける
レピュテーショナルリスクの増加
投資家における投資基準や法規制等の厳格化 当社グループが提供する
商品・サービスの改良や変更等に
伴う対応コストの増加
機会 様々なソリューション提供を通じて、自然環境に配慮
した事業活動やネイチャーポジティブ実現に向けたイノ
ベーションを行う企業の成長をサポート
当社グループの収益基盤が
拡大し、株式・債券の引受や
投資の機会が増加
収益増加
ネイチャーポジティブ実現に貢献するファンドの組成や
株式・債券の販売等
お客様への新たな
投資機会の提供が増加

自然資本関連のリスクや機会について得られた示唆を基に、今後分析を深掘りしていくとともに、投資先や引受先とのエンゲージメント等に活用していきます。また、ネイチャーポジティブ実現に向けて取り組む企業へのサポートを通じて、当社グループの企業価値向上につなげていきます。

ネイチャーポジティブ実現に向けた当社グループの機会

機会① サステナブルファイナンスの推進(グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング部門)

サステナビリティ課題の解決には巨額の資金が必要ですが、そのための資金調達の支援として当社グループはサステナブルファイナンスを推進しており、お客様へ新たな付加価値を提供するビジネス機会と捉えています。

これまでに、グリーンボンドやトランジションボンドなど、様々なSDGs債の事務主幹事等を務め、市場拡大や商品の多様化に貢献してきました。

主な実績

発行体 種類 発行額
2022年 富士フイルムホールディングス ソーシャルボンド(事務主幹事、SA) 計1,200億円
日本電気 サステナビリティ・リンク・ボンド(事務主幹事、SA) 計1,100億円
KDDI サステナビリティボンド(事務主幹事、SA) 計1,000億円
2023年 インドネシア共和国 サムライブルーボンド(主幹事) 207億円
花王 サステナビリティ・リンク・ボンド(事務主幹事、SA) 250億円
日本航空 トランジションボンド(事務主幹事) 200億円
2024年 日本国 クライメート・トランジション利付国債(受託事業 -
商船三井 ブルーボンド(事務主幹事、SA) 200億円
中日本高速道路 グリーンボンド(事務主幹事、SA) 600億円
日本政策投資銀行 トランジションボンド(事務主幹事、SA) 100億円
  • 令和5年度脱炭素成長型経済構造移行推進対策調査事業(グリーン・トランジションボンドの活用等に係る調査)の受託

自然資本関連では、ネイチャーポジティブ実現に貢献する建設プロジェクト件数をKPIの一つに設定したサステナビリティ・リンク・ボンドや、海運業界として世界初の国際的なガイダンスに基づくブルーボンドを手掛けるなど、サステナビリティファイナンスの更なる高度化に注力しています。

事例:商船三井のブルーボンド(2024年1月)

2024年1月、大和証券にて、商船三井のブルーボンド引受における事務主幹事およびBlue Bond Structuring Agentを務めました。商船三井グループは、気候変動対策だけでなく自然資本・生物多様性の保護といった様々な地球環境への負荷低減をグループ一丸となって進めており、海洋の持続可能性を追求しながら海運業を中心に様々な社会インフラ事業を展開しています。

大和証券は、これらの取組みを促進するためのブルーボンドの発行支援および引受を行い、サステナブルファイナンスを通じて商船三井のネイチャーポジティブに向けた取組みを支援しました。

事例:鹿島建設サステナビリティ・リンク・ボンド plus(2024年9月)

2024年9月、大和証券にて、「鹿島建設サステナビリティ・リンク・ボンド plus」の引受における事務主幹事およびStructuring Agentを務めました。鹿島グループは、社会課題の解決と鹿島グループの持続的成長を両立させるためのマテリアリティ(重要課題)の一つに「脱炭素・資源循環・自然再興への貢献」を掲げており、「鹿島環境ビジョン 2050 plus」の下で2050年カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブの実現に取り組んでいます。

大和証券は、これらの取組みを促進するためのサステナビリティ・リンク・ボンドの発行支援および引受を行い、サステナブルファイナンスを通じて鹿島グループのカーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブ実現に向けた取組みを支援しました。

機会② 投資先企業の中長期的価値向上および社会の持続可能性の維持(大和アセットマネジメント)

大和アセットマネジメントでは、運用におけるマテリアリティを設定しており、自然資本もその1つです。

運用におけるマテリアリティ

重要課題 具体的な注目点
情報開示
気候変動
  • 温室効果ガス排出
  • 気候変動リスク・機会
  • エネルギー転換
自然資本
  • 生物多様性
  • サーキュラーエコノミー
  • 気候変動以外の自然災害への対応
  • 水質・大気・土壌汚染
社会的責任
  • ビジネスと人権
  • 健康・安心社会への貢献
  • サプライチェーンマネジメント
人的資本
  • 人的資本経営
  • DE & I
  • ウェルビーイング
企業価値向上
  • ガバナンス体制
  • リスクマネジメント
  • サイバーセキュリティ
  • 資本効率改善(政策保有株式等)
  • ステークホルダーとの対話
  • タックスガバナンス
  • 腐敗・汚職
その他サステナビリティ
  • 知的財産
  • DX・生成AI
  • 国際的な規制・市場変化への対応

特定したマテリアリティをエンゲージメントや議決権行使、投資判断に反映していくほか、商品開発や営業戦略を含めた幅広い事業活動へ適用していきます。

投資先企業のあるべき経営の姿

同社では、投資先企業が持続的な企業価値向上を実現するためのあるべき経営の姿(ベストプラクティス)を定め、継続的に見直しを行っています。投資先企業とのエンゲージメント等において、企業価値向上に向けたディスカッションの内容を深めるツールとして活用しています。

ベストプラクティスの一例(自然資本)
  • 1.サプライチェーン全体についての現状把握
    • 自然資本(森林、水、鉱物、生物多様性など)と自社の経済活動との接点を発見し、自然環境に与える影響、依存関係を分析することで、事業継続上のリスクが把握されている。
  • 2.TNFD提言に沿った取り組みと情報開示
    • バリューチェーン全体にわたる事業と自然の関係を分析し、ネイチャーポジティブに向けた企業活動が行われている。
    • 生物多様性リスクと機会の特定、シナリオプランニング、事業戦略の策定等を適切に行うなど、LEAPアプローチ等のTNFD提言に沿った取り組み・開示が行われている。
  • 3.サーキュラーエコノミー移行への貢献
    • 資源・製品の価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止等により、循環型経済への移行を促進する企業活動が行われている。
機会③ ESGファンドの設定・販売(大和アセットマネジメント)

大和アセットマネジメントでは、サステナブルな社会への移行に向け、ESGやSDGs達成等に取り組む企業を投資先とするESGファンド等の投資信託を提供しています。

脱炭素テクノロジー株式ファンド(愛称:カーボンZERO)

「脱炭素テクノロジー株式ファンド(愛称:カーボンZERO)」(純資産総額224億円)は、大和アセットマネジメントの中心的な位置付けのESGファンドで、信託報酬の一部を「認定NPO法人環境リレーションズ研究所」の植樹プロジェクトに寄付しています。毎年5~6月頃に現地森林組合等で植樹され、植樹後10年間保育管理が行われます。2024年には全国3カ所で5,425本を植樹し、累計で21,529本となりました。植樹地は全国6カ所に広がっています。

  • 2025年10月末時点
クリーンテック株式ファンド(愛称:みらいEarth)

「クリーンテック株式ファンド(愛称:みらいEarth)」(純資産総額341億円)は、大和アセットマネジメントの主要なESGファンドの一つで、世界のクリーンテック関連企業の株式に投資を行っています。環境にやさしい輸送手段の利用、代替エネルギーへの移行、より健康的な食生活と持続可能な食料供給の実現、水資源の保全や再利用、廃棄物削減など、環境関連の課題解決に取り組む企業への投資を行うことで、環境や社会のインパクト創出を目指しています。投資による社会的なインパクトについては、二酸化炭素の削減量、水の使用量等で測定します。

  • 2025年10月末時点
機会④ 自然資本・生物多様性に関する情報分析・発信(大和総研)

当社グループは総合証券グループとして、お客様や投資家等のステークホルダーの皆様へ向けて、投資だけでなく経済や社会に関する幅広い情報発信や、長期的な視野からの政策提言等を行っています。

大和総研

当社グループのシンクタンクとして、金融資本市場や実体経済に関する幅広い分析・情報発信や社会に向けた政策提言活動を行っています。

サステナビリティ関連情報の発信にも力を入れており、金融調査部ESG調査課を中心に関連情報の調査・分析・発信に注力しています。サステナビリティ情報開示の枠組みの策定が進展し、発行体・投資家双方の関心が高まっている中、TNFDフレームワーク等の開示基準や自然資本・生物多様性の動向についても、レポート等を通じて広く情報発信を行っております。

機会⑤ 不動産投資を通じた自然資本を含む環境への配慮(大和リアル・エステート・アセット・マネジメント)

大和リアル・エステート・アセット・マネジメントは、不動産などオルタナティブ資産の運用業務に、自然資本を含む環境への配慮を組み込むなど、資産運用を受託する投資法人やファンドの中長期的な価値向上に向けて、サステナビリティへの取組みを推進しています。

運用するREITの保有物件における、自然資本を含む環境配慮

同社が運用するREITでは、保有物件において自然資本を含む環境への配慮に取り組んでいます。

  • 節水機器導入及び改修:
    節水性能の高い衛生機器への更新、雑用水用途に雨水・中水を利用する等、節水改修を順次実施しています。
  • 壁面・屋上の緑化推進:
    大和証券オフィス投資法人が保有する「Daiwa麻布テラス」では、3~6階のルーフや屋上階に各階ごとに異なるコンセプトの屋上庭園を設け、地域に自生する植物を多く採用することで、生態系ネットワークに配慮した植栽計画を行う等、生物多様性の保全にも配慮しています。

なお、大和証券リビング投資法人が保有する「グランカーサ緑地公園」において、自主管理公園の設置や生物多様性の質向上を目指す植栽管理が評価され、JHEP認証(Aランク)を取得しています。

  • Japan Habitat Evaluation and Certification Program(ハビタット評価認証制度):生物多様性の保全への貢献度を客観的・定量的に評価・認証し、可視化できる国内唯一の認証制度。(公財)日本生態系協会が開発・運営。
機会⑥ 自然資本にも配慮した持続可能な農業の推進(大和フード&アグリ)

2018年11月に設立した大和フード&アグリは、リスクマネーを提供しながら、「大規模化 ✕ 高効率化 ✕ 最先端技術の導入」によるビジネスモデルの確立・発信や新たな投資アセットの創出を通じて、日本の農業・食料分野を取り巻く社会課題の解決に貢献していきます。

自然資本に配慮した資材や技術の活用

大和フード&アグリでは、自然資本に配慮した資材や技術を活用しながら、持続可能な農業を推進しています。

  • 環境制御システムの利用:
    ハウス内の温度や湿度、二酸化炭素濃度等のデータを収集し、植物の生育に適した環境に制御することで、省エネ等につなげています。
  • 天敵の活用:
    害虫の防除に天敵昆虫を活用することで、化学農薬の使用量を削減しています。
  • ココヤシ培地の利用:植物の栽培を終了した後、たい肥化できるココヤシ培地を利用しています。
  • 廃液のリサイクル:植物を育てる培地から出る廃液を集め、再利用しながら植物を育てています。

4. リスクと影響の管理

① リスク管理体制

リスク管理体制

当社グループの経営ビジョン「2030Vision」のコアコンセプトである「金融・資本市場を通じ、豊かな未来を創造する」を実現するためには、収益性や成長性を追求する一方で、事業に伴う各種リスクを適切に認識・評価し、効果的に管理することが重要であると考えています。リスクとリターンのバランスがとれた健全な財務構造や収益構造を維持し、短期のみならず、気候・自然資本関連リスクのような中長期で顕在化する可能性のあるリスクも適切に管理することにより、企業価値の持続的な向上を図ります。

② 環境・社会関連ポリシーフレームワーク

当社グループは、地球環境/生物多様性の保全や人権の保護など、環境・社会リスクの管理体制を強化するため、「環境・社会関連ポリシーフレームワーク」を策定しています。本フレームワークでは、大和証券グループ本社およびその主要なグループ会社が実施する新規の投融資と債券/株式発行にかかる引受を対象とし、投融資等を禁止する事業及び留意する事業を定めています。

投融資等を禁止する、自然資本関連の事業

  • ユネスコ指定世界遺産へ負の影響を与える事業
  • ラムサール条約指定湿地へ負の影響を与える事業
  • ワシントン条約に違反する事業

投融資等の際に留意する、自然資本関連の事業

先住民族の地域社会へ影響を与える事業

当該事業への投融資等に際しては、先住民族の地域社会に対して文化的、社会的、経済的に深刻な被害を与えないか、またそれらに対する適切な対策が講じられているか等に留意し、環境・社会リスク評価を含むESGデュー・デリジェンス(以下、「ESGデュー・デリジェンス」)を実施の上、その判断に活用します。

パーム油農園開発事業

当該事業への投融資等に際しては、乱開発により野生生物の生息地が失われることで生物多様性の喪失に繋がっていないか、地元住民との土地紛争や児童労働、強制労働、人身取引など人権侵害が起きていないか、またそれらに対する適切な対策が講じられているか等に留意し、ESGデュー・デリジェンスを実施の上、その判断に活用します。

なお、投融資等を実施する場合、当該事業者に対しては、パーム油の国際的な認証制度であるRSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil:持続可能なパーム油のための円卓会議)の取得状況を確認し、未取得の場合には取得を推奨します。また、NDPE(No Deforestation, No Peat and No Exploitation:森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ)等の環境・人権方針の策定を推奨します。

また、当該事業者に対する新規の投融資については、そのサプライチェーンにおいても、同様の取組みがなされるよう、サプライチェーン管理の強化、およびトレーサビリティの向上を推奨します。

森林破壊を伴う事業

当該事業への投融資等に際しては、生態系の破壊による環境への負の影響が生じないよう適切な対策が講じられているか、また違法な伐採が行われていないか等に留意し、ESGデュー・デリジェンスを実施の上、その判断に活用します。

なお、投融資等を実施する場合、当該事業者に対しては、国際的な森林認証制度であるFSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)もしくは同等の認証の取得や、NDPE等の環境・人権方針の策定を推奨します。

また、当該事業者に対する新規の投融資については、そのサプライチェーンにおいても、同様の取組みがなされるよう、サプライチェーン管理の強化、およびトレーサビリティの向上を推奨します。

大規模な水力発電の建設事業

当該事業への投融資等に際しては、ダム建設に伴う環境や生態系の破壊および地域住民への負の影響に対して適切な対策が講じられているか等に留意し、ESGデュー・デリジェンスを実施の上、その判断に活用します。

石油・ガス開発事業

当該事業への投融資等に際しては、環境や生態系および地域社会への影響に対して適切な対策が講じられているか等に留意し、ESGデュー・デリジェンスを実施の上、その判断に活用します。特に、北極圏での開発事業、オイルサンドやシェールオイル・ガスの開発事業、パイプライン事業への投融資等については、環境や社会に大きな負の影響を与える可能性があるため、慎重に判断します。

新規の投融資等に際しては、対象となる案件に対して初期的なESGデュー・デリジェンスを実施します。当該評価の結果、追加的な確認が必要と判断した場合には、強化ESGデュー・デリジェンスを実施し、投融資等の可否を判断します。当該案件の実施が当社グループの企業価値を大きく毀損する可能性がある場合には、さらに経営陣による追加協議を行い、最終的な投融資等の可否を判断します。

また、新規の投融資の実施後も、投融資先が児童労働、強制労働、人身取引を行っていないか、定期的にスクリーニングを行います。児童労働、強制労働、人身取引の事実を把握した場合は、対話を通じて是正と再発防止を求め、投融資継続について慎重に検討します。

なお、本フレームワークは、運用状況や外部環境等の変化を踏まえながら定期的に見直しを行っています。

自然資本に関連するステークホルダーの人権尊重について

大和証券グループが定める「人権方針」は、当社グループのあらゆるステークホルダーの人権に適用されます。国連「ビジネスと人権に関する指導原則」や「OECD多国籍企業行動指針」などの国際規範を支持・尊重し、適切な人権デューデリジェンスやステークホルダー・エンゲージメントを実施していきます。

5. 指標及び目標

当社グループでは、中期経営計画 “Passion for the Best” 2026の策定にあわせて、2024年度にサステナビリティKPIを新たに設定・公表しました。自然資本にも関連する指標としては、GHG排出量やSDGs関連債リーグテーブル等が挙げられます。

指標及び目標

自然資本・生物多様性に関連するサステナビリティKPIの例 目標 2026年度 実績 2024年度※1
指標
(グループKPI)
自社のGHG排出量※2 連結 ネットゼロ
(2030年度)
2,725 t-CO2e
投融資ポートフォリオのGHG排出量※3 連結 186~255
(2030年度)
243 g-CO2e/kWh
SDGs関連債リーグテーブル GIB 2位以内 1位
  • ※12025年3月末時点
  • ※2自社のGHG排出量はScope1+2の合計(マーケット基準)
  • ※32023年度実績

詳細は、気候関連レポート2025(P.42)をご覧下さい。

また、セクター別の引受実績については、サステナビリティデータ集2025(P.24)にて開示しています。

今後、継続的に自然資本への依存・影響の把握に努めるとともに、当社グループと自然資本との関係性を踏まえながら、目標設定や具体的な進捗指標を検討する予定です。