認定NPO法人D×P(大阪府)

学校と連携した「授業」×教室を有効活用した
「居場所」の事業開発
助成金額:9,670,000円(3年累計)
実施期間:2019年1月~2021年12月
今井 紀明(理事長)
団体概要

認定NPO法人D×Pは、10代の孤立を解決するNPOです。10代の孤立は、不登校・中退・家庭内不和・経済的困難・進路未決定などにより、安心できる場や所属先を失ったときに起こります。D×Pは、学校とLINE相談で10代と出会い、困った時の頼れる人とのつながりをつくります。
通信制・定時制高校などと連携しての居場所事業の他、進路・就職などに関するLINE相談「ユキサキチャット」、そして家庭に居場所のない子どもたちが集まるエリアに週1回、テントを出して食事提供などを行うアウトリーチ事業などに取り組んでいます。
今回の事業開発で行ったこと

今回は、定時制高校と連携し、学校の中に安心できる居心地のいい空間をつくる居場所事業「いごこちかふぇ」を実施しました。
週1回程度、教室で飲食を提供しながら、生徒たちが地域のボランティアの方たちをはじめさまざまな背景を持った社会人と交流できる場を作っていく取り組みです。

同時に、通信制・定時制高校での取り組みとして、D×Pのスタッフやボランティアとして登録いただいている大人の方が学校を訪れ、生徒たちと対話する授業を4回連続で行うプログラム「クレッシェンド」も実施しました。
3年間の取り組みで行ったこと
実施先の定時制高校との打ち合わせ、振り返りを繰り返しながら、居場所事業とクレッシェンドの運営を行いました。
居場所事業では食べたり飲んだりしながら話をできる場を作るとともに、七夕やクリスマスなどの季節行事にあわせたイベントを、生徒たちのアイデアも取り入れながら行いました。


また、高校を卒業した後に頼れる連絡先を掲載した「ユキサキBOOK」を卒業年度生に配布。
生き方や進路について知ることができ、話せる「ユキサキスペース」をカフェ内に配置し、卒業後の進路に関連した企画も実施しました。


「クレッシェンド」では、D×Pのスタッフおよびボランティアが参加し、生徒たちと大人が3対1くらいの比率で話せるような場を作りました。
自己紹介やゲームに始まり、大人が過去の自分の経験などを話す時間を設けたことで少しずつ距離が近づき、プログラム最終日には生徒たちのほうから、将来進みたい方向性などについて話す場面も見られました。

さらに、そうした場で生徒たちが口にした興味関心や希望にあわせた「仕事体験ツアー」も実施しました。
定時制高校に通う生徒の中には家庭に経済的な余裕がなく、働きたいからではなく「働かざるを得ない」ためにアルバイトに追われていて、「仕事」そのものにいいイメージがないという生徒もいます。興味のある仕事、趣味の延長上にある仕事などを実際に見てみることで、「仕事」に対するハードルが下がったという声を聞くことができました。受け入れに協力いただいた企業の皆さんからも、「いろいろな背景を持つ若者と関われてよかった」という感想をいただきました。
また、コロナ感染拡大の関係で居場所事業やクレッシェンドを実施できなかった期間もありましたが、その時期は積み重ねたノウハウをまとめ、マニュアル作りに取り組みました。
達成できたこと、できなかったこと/子どもの貧困解決に対してどういったインパクトを生んだか
定時制高校に通う生徒は、不登校や中退の経験があったり、家族との関係性が悪かったり、経済的に困難な状況に置かれていたりと、さまざまな背景を持っています。教員を含めた大人全般に対して壁を作っている生徒、将来に希望を持てないという生徒も少なくありません。今回の事業にあたっては、そうした10代に、教員や家族とは違う大人と「出会ってよかった」と思える体験をしてもらうことで、別のコミュニティにつながったり、将来の希望を描いたりするきっかけを作れればと考えていました。
人との関わりが制限されていたコロナ禍でも事業を継続させ、生徒たちとつながり続け関係性を築けたこと、学校の中だけでなく仕事体験ツアーにつなげられたことの意義は大きかったと考えています。
また、コロナ禍の中でもスタッフが一人も辞めることなく活動を続けたこと、マニュアルの整備を進めたことで、スタッフ全体の底上げにもつながったと感じました。特に、若者と関わるときの姿勢としてD×Pが徹底している「否定せず関わる(どんな考えや価値観、在り方も否定せずに、なぜそう思うのかと背景に思いを馳せながら関わる)」は、どのような現場においても重要なものであり、今後に必ずつながってくると考えています。

子どもの貧困においては、経済的な問題だけではなく、ロールモデルになるような人と出会えず大人を信用できない、将来のビジョンを描けないという問題も生じます。居場所事業やクレッシェンドでの大人たちとの出会いを通じて、10代の心に小さな変化が出てきたことを感じました。クレッシェンドの実施校においては、コロナ禍の中でありながら全生徒の6〜7割が出席してくれており、それだけ多くの10代に変化をもたらすことができたことの意味は大きいのではないかと考えています。
また、定時制高校におけるこうした居場所作りは、全国でもまだ事例がそれほど多くありません。全国でこうした場を必要としている子どもたちがいる中で、他地域でも同様の事業を展開できるよう、マニュアル化を進められたことも大きな収穫でした。
今後の取り組みと展望/資金提供者となりうる民間企業へのメッセージ

コロナ禍においては、不登校の子どもが急増し、困窮状態に置かれている子ども、自殺する子どもも増えたというデータがあります。子どもたちを取り巻く状況は、急速に悪化しているといえるでしょう。
そうした状況を受け、学校における受け皿のみならず、学校に行けていない子どもたちのための、学校外での居場所の必要性も高まっています。
生活困窮家庭の場合、フリースクールに通わせる余裕が家庭にないことも多く、家族との折り合いが悪ければ家出するしかない、というようなことも少なくありません。そうした子どもたちの受け皿となる、学校以外の居場所の運営が急務だと考えています。
また、これまでの活動で生まれてきた他地域の自治体やNPOとのつながりを深め、オンライン相談窓口「ユキサキチャット」のノウハウを公開するなど、連携しての活動も進めていきたいと思っています。

今の日本は、教育の面でも福祉の面でも、子どもを育てやすい環境、子どもたち自身が未来に希望を持てるような環境にはなっていないと感じます。
しかし、国が具体的な社会課題を認識して、支援体制を整えるまでには非常に時間がかかります。それに対して、迅速に課題を見つけ出し、解決に向けて動くことができるのがNPOの強みだといえるでしょう。国による制度が整うまでの前段階として、民間から仕組みを作っていくことの重要性は、D×Pを立ち上げてからの10年で強く実感しています。
そうした活動を迅速に、そして一定程度の規模感をもってやっていくことが、NPOの重要な役割だと考えています。企業の皆さんにも、資金援助やプロボノなどの形で「人」を出すことで、その活動を支えていただければ嬉しいです。