金融・資本市場の維持発展のために

大和証券グループの主要事業である証券ビジネスは、金融・資本市場を介して、有価証券の発行による資金の調達ニーズと投資家の運用ニーズを結びつけ、円滑なお金の流れをつくり出す、社会・経済の重要なインフラストラクチャーです。これを維持発展させることは、SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の実現に向けた当社グループの大きな使命と考えています。

市場機能維持のための取組み

決済機能の役割と重要性

金融商品取引において、買い手と売り手の双方と、株式や債券等の証券や資金の受渡しを行なう決済は、当社グループの業務の要です。社会インフラでもある決済機能では、安全性と信頼性、そして利便性が重要です。必要なときに、確実に換金可能な、安全で信頼できるマーケットだからこそ、世界中から投資資金が集まり、企業等の資金需要者も資金調達が可能となるのです。

証券会社としての責任

決済機能が滞るような事態が発生すると、マーケット全体の信用失墜につながり、ひいては世界経済へ重大な影響を及ぼす可能性があります。大和証券では決済を当然のように正確かつ迅速に履行することこそが、社会インフラとしてマーケットを機能させ、経済発展を実現する原動力となると考え、円滑な業務遂行態勢の構築に努めています。
このため、膨大な量の取引を確実に決済するための処理能力が高く、信頼のおけるシステムを整備しています。また、業務のデジタル・トランスフォーメーション(DX)による効率化・さらなる正確性の確保、イレギュラーな事象が発生した際にスピーディーに状況を把握し的確に対応する幅広い知識・ノウハウを持った人材によりデジタルとリアルのベストミックスで決済業務を遂行しています。
一方で、日本の金融・資本市場の競争力を強化するには、一層の利便性向上とリスク管理強化が必要との認識から、業界全体で決済期間の短縮化を進めており、2018年5月に国債のT+1決済が、2019年7月に株式のT+2決済、2020年7月に国内債券のT+2決済が始まっています。また、さらなる決済業務の効率化等に向け、決済機関等と共同し継続的に様々な検討を行なっています。

新たな感染症の流行や自然災害、テロなどの不測の事態に対しては、いかなる状況であろうとも決済業務を継続させる決意のもと、事業継続計画(BCP)を策定し、定期的に訓練を実施し備えています。
決済の信頼性は、お客様の信頼を維持するために極めて重要です。今後も、信頼できる決済インフラと人材を支えに、高度化するお客様のニーズに応え、スピーディーにソリューションを提供していきます。

金融・資本市場における証券会社の役割

証券業務におけるブロックチェーン/分散型台帳技術の適用検討

大和証券と大和総研が主体となり、証券約定照合業務におけるブロックチェーン/分散型台帳技術(DLT)の適用検討プロジェクト第2フェーズを、機関投資家、金融機関およびシステム会社の26社と共同で実施しました。
日本取引所グループによる業界連携の枠組みを活用して行なわれた本プロジェクトでは、第1フェーズ(2017年)で約定照合業務へのDLT適用の有用性が確認されたことを受け、第2フェーズ(2018年9月~2019年1月)では、同業務におけるデータ項目や業務プロセスの標準化、DLT基盤の運用方針などについて議論し、業界としてのコンセンサス形成を目指して、より現実的なシステム構築に向けた構想をとりまとめました。プロジェクトの成果は、2019年2月にワーキング・ペーパーとして公表しています。
大和証券グループは、本プロジェクトの取組みが、国内証券市場全体でのコスト低減や利便性向上につながり、最終的には投資家の利益に資すると期待しています。今後も、お客様に有益なサービスを提供すべく、本構想の実現に向けて取り組んでいきます。

  • 証券会社と機関投資家との間で、証券の売買成立後に数量や手数料などを確認し合う業務

市場機能発展のための取組み

東南アジア、台湾でのプライベート・エクイティ投資

大和PIパートナーズでは、東南アジア、台湾の経済発展、経済開放を受けて、東南アジア、台湾でのプライベート・エクイティ投資を本格化させ、現在、合計14件の出資を行なっています。また、2019年にはDAIWA Myanmar Growth Fundを立ち上げました。出資先企業のうち、ミャンマーで再生プラスチックの製造を行なうCommercial Plastic Holding社は、ペットボトルごみを減少させるとともに再生品利用の拡大を通じて、同国の環境問題の改善に寄与しています。インドネシアで物流を行なうOnstar Express社は、E-Commerce業者への注文の最終消費者までのラストワンマイル物流を担うことにより、人々の利便性と生活水準の向上に寄与しています。台湾で医療精密機器の製造を行なうMedScope Biotech社は、高性能手術器具の製造を通じて、人々の健康な生活に寄与しています。シンガポールで自社プラットフォームを用いて保険商品の仲介・流通を行なうQoala Technology社は、東南アジアの人々へ保険商品を提供することで経済成長に寄与しています。
経済発展めざましい東南アジア、台湾には、数多くの成長性を秘めた新興企業が存在しており、引き続きこれらの企業に資本を提供していくことで成長を促進し、社会インフラ・生活水準の向上に資することができると考えています。

ベトナム株式市場発展に向けた支援

大和総研は、独立行政法人国際協力機構(JICA)からの委託を受けて、2019年3月よりベトナムの株式市場発展を支援するため「ベトナム株式市場の公正性及び透明性改善に向けた能力向上プロジェクト」に取り組んでいます。本プロジェクトは、2012年3月に発布したベトナム首相決定「2011年から2020年にかけての証券市場開発戦略」の一環として、ベトナム政府が日本政府に要請したことにもとづいて実施される大型国際協力案件です。JICAによる公募で選定された大和総研を主体として日本取引所グループなどを含む総勢12名のコンサルタントチームで3年間にわたり実施されるものとしてスタートしました。

本プロジェクトの開始にあたって設定された具体的な成果は以下の4点です:

  1. 1.証券当局および取引所における検査を含めた市場監視能力の強化
  2. 2.証券当局および取引所における証券会社等の市場仲介者への監督能力の強化
  3. 3.株式上場および株式公募の運営能力の強化
  4. 4.上場企業等の経営層レベルにおける投資家保護にかかわる責任意識の向上

実際のプロジェクト活動の内容は、当初、証券市場の監督当局である国家証券委員会(SSC)や、ホーチミン証券取引所(HOSE)、ハノイ証券取引所(HNX)に対し、国際水準の公正性・透明性および効率性を目標とした知識の提供、実務能力向上のためのトレーニング、実務マニュアルの作成などの支援を行なうことを予定していましたが、プロジェクト開始後には、2019年11月に成立した新証券法(施行は2021年)にもとづく施行政令や通達の策定へのコンサルテーション提供、政策提言、証券市場発展の戦略構築支援、ベトナムの上場会社等を対象とした大規模セミナーの開催など幅広く業務を拡大していきました。2020年3月以降は、新型コロナウイルスの影響によりオンラインによるコンサルテーションや講義、セミナー開催等を主軸にした活動となりましたが、従来型の現地渡航中心の活動では実現が難しかった日本の当局や市場関係者の参画する新しい業務実施スタイルを導入して、両国から非常に高い評価を受けています。

ベトナムでは、2021年より新証券法とそれにもとづく各種政令、通達が施行され、HOSE、HNXの2つの証券取引所を傘下に置く持株会社としてベトナム証券取引所(VNX)が創設されました。2022年5月現在、この新しい法制度および証券市場のフレームワークの下にベトナム証券市場の発展をさらに推進し、国際的なプレゼンスを向上させるため、2030年に向けた新証券市場発展戦略を策定が行われているところです。ベトナム政府は、この新しい証券市場発展戦略の策定やその後の実行への支援を求めて日本政府へプロジェクトの1年間の延長を要請し、両国間の合意が成立した結果、本プロジェクトは2023年3月の終了に向けて4年目に入っています。

本プロジェクトによりベトナム株式市場の透明性と公正性が向上し、証券市場の健全な発展に協力することは、ベトナムの経済成長と産業発展の基盤構築とベトナム社会の豊かさの実現に寄与することであり、SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献をしていく活動と位置付けられます。また、本プロジェクトを通じて大和証券グループのベトナム金融資本市場へのかかわりを深めることは、中長期的に大和証券グループのベトナムおよびアジア関連事業の発展にも寄与するものと期待されます。

アジア債券市場の育成

大和総研は、アジア諸国における債券市場の発展に資する活動を長期にわたり実施しています。
代表的な取組みとしては、「アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI:Asian Bond Markets Initiative)」の枠組みへの参画が挙げられます。ABMIは、1990年代後半に発生したアジア通貨危機を教訓に、特に現地通貨建て債券市場の発展を通じた資金調達手段の拡充によって、金融市場の安定性を確保することを目的として、2003年に発足した地域協力の仕組みです。ASEAN+3(アセアン加盟10か国と日本・中国・韓国)財務大臣・中央銀行総裁会議で具体的なアクションが決定されるこの枠組みでは、アジア開発銀行(ADB)主導による法規制やインフラの整備、債券発行や需要喚起などのタスクに応じた地域単位の支援と、アセアン事務局が所管する国別支援があります。
大和総研は、このうち後者の国別支援プログラムを活用して、2004年以降、必要に応じてグループ会社や他社と協業しながら、フィリピン・インドネシア・ミャンマーの債券市場に対する技術支援を数次にわたり継続的に実施してきました。いずれの国においても、支援先としてカウンターパートとなるのは関係省庁・中央銀行・監督当局などの政府機関です。これまで、各国政府機関の幹部や実務者との議論・協議を踏まえて、法制度の確立、発行・流通市場の構築、債券型投資商品の開発など、それぞれの発展フェーズに即したテーマを設定し、知識・知見の提供やスキームの提案を行なってきました。フィリピンについては、国際協力機構(JICA)から受託した案件を通じて、公共インフラ整備に資金を供給するプロジェクトボンドの実現可能性調査を実施し、将来の活性化に向けた政策提言も行なっています。
このようなアジア諸国における債券市場の育成・発展への貢献は、必要な資金を余剰主体から不足主体に循環させ、金融財政的な観点から社会課題の解決を図るという点でSDGsの目標達成に寄与し得る活動といえます。大和総研では今後も継続的に取り組んでいきたいと考えています。