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第45回:「社会、経済、家庭を良くするダイバーシティの実現へ」 2013年1月30日

<写真>パク氏

パク・スックチャ氏
アパショナータ, Inc.代表
ダイバーシティ(多様性)&ワークライフ・コンサルタント

日本生まれ,韓国籍。米国ペンシルバニア大学経済学部BA(学士)、シカゴ大学MBA(経営学修士)取得。米国系企業に勤務後、2000年に退社し、ワークライフバランス、ダイバーシティ、および在宅勤務を専門とするコンサルタントとして独立。企業での意識、行動、働き方改革に携わる。近年は特に米国とアジアに精通したグローバルな経験を活かし、急激に進むグローバル化と複雑化する多様性に適切に対応すべく人材育成と環境整備に向け、ダイバーシティ(多様な人材活用)の推進に力を注ぎ、執筆や啓蒙活動にも取り組む。

誰もが能力を発揮できる環境を

河口:
今日はダイバーシティについてお聞きしたく、お越しいただきました。パクさんはこのテーマをずっと追いかけていらっしゃいますが、どうしてでしょうか?

パク氏:
私はこれまでマジョリティになったことがないため、どんな人でも能力を発揮できる環境作りに興味があり、追求したいと思ったのです。まず、日本で生まれた在日韓国人ということ。そして、留学生としてアメリカへ行ったときは、マジョリティは白人で、ベトナム人も日本人も韓国人も、皆一緒で「アジア人」。マイノリティでした。韓国に行くと、今度は「キョッポ」と呼ばれます。

河口:
キョッポという言い方があるのですか?

<写真>パク氏

パク氏:
韓国で生まれ育っていない在外韓国人のことです。私は自分の母国、韓国でも「外の人」だということを実感しました。独立する前は外資系企業に勤めました。その会社では日本人の上司を持ったことがなく、同僚はアジア人でした。

河口:
独立されて10年ほどだそうですが、外資系企業にいらしたときは、人事系の仕事をされていたのですか?

パク氏:
そうです。アジア地区全般の人事や教育、人材開発を担当しました。これまで香港、中国、台湾、シンガポールといった国々と仕事をしていたので、日本と違う部分を強く感じていました。
在籍していたのはアメリカ系企業で、ディレクターの多くはアメリカ人でしたが、ローカルの比率を増やそうとしていました。例えば12年前、香港とシンガポールのアメリカ人のディレクター5人を本国へ戻しローカルで採用したのです。すると、そのうち3人が女性でした。たまたま優秀な人を採用したらこうなったとのことでした。香港やシンガポールでは、女性は男性と互角です。日本の状況とはかなり差がありますね。

河口:
その差は、能力の差なのか社会的仕組みで足かせがあるのか、あるいは本来、能力があるのに私はダメという思い込みがあるのでしょうか。

パク氏:
能力の差ではありません。女性自身が自分で『ここまででいい』と思ったり、社会全体が女性はここまででいいと決めていたり、仕組みの違いもあります。昨年11月に香港で行われた「アジア・ダイバーシティ・フォーラム」でも、ジェンダーは問題になっていました。課長職の女性者数は問題ないのですが、部長職の女性比率となると20%前後、取締役では9%ほどしかいないことが問題だ、と言っていました。それでも日本に比べるとはるかに多いほうで、日本での女性の部長や取締役はまだほんの数%です。

河口:
日本はまだ、採用はするけれど昇進は……という段階ですね。韓国の状況はどうでしょうか。今回、大統領にパク・クネという女性が決まり、これから変わっていきそうですね。

パク氏:
そうですね、韓国は儒教の影響で、女性より男性の方がどうしても偉くなってしまいますが、一人ひとりの女性はとても向上心が強く、もっと上に行きたいというモチベーションを持っています。大統領選の結果は、女性もやればできると自信になりました。彼女はパク・チョンヒの娘ということもありますが、興味深いことに男女の役割分担意識が強い中高年層の多くが、彼女自身の実績を認め、支持しました。彼女自身、韓国がどれだけ男尊女卑かということも知っていますから、これからいろいろなところで変わるだろうと思います。

パフォーマンスを上げるためのダイバーシティ

河口:
日本では、女性雇用の問題は「たかが女性のことで何を騒いでいるのだ」と片づけられがちですが。

パク氏:
日本は高学歴女性が専業主婦になってもやっていけるほど、まだ社会に余裕があるからでしょう。海外はそうはいかず、仕事ができる人材は、誰でも活用しないと企業は生き残れません。その結果、それまで主流でなかった女性や有色人種が進出しました。属性で評価せずに、純粋に能力や成果や貢献度で評価していくとダイバーシティが進むのです。
 日本は高度経済成長期から、日本人の男性で大卒の正社員という画一的な集団で成功してきました。「あ、うん」の呼吸も通じるし、決まったことの浸透も早く効率がいいので、そのほうが良かった。そして、年功序列と終身雇用。この仕組みが長い間、成功してきました。今の私たちがあるのは、これらの仕組みや制度のおかげです。
 ところが近ごろのように、IT革命による変化の激しい時代においては、それが足かせになってしまいます。ITで不確実性が高まり、グローバル化も進みました。高度成長期のように、来年は必ず今より良くなると言えなくなり、いつどうなるかわからない。お客さんも多様化した。変化が激しい時代には、柔軟に対応できないようなやり方は、かえって足かせになります。

河口:
ITでいろいろな情報が、多くの人に入ります。これまでは、ある種の人にしか入らず、インプットに対する反応は想定できたけれど、今は多様に情報が広がっていく。

パク氏:
さらにコンペティター(競争者)が誰になるかわからない不連続の状況があります。例えば、デジカメの登場により、カメラメーカーの競争相手は同業者ではなく電機メーカーになり、スマホの地図アプリの出現で、車のナビの必要性は減少しています。ナビの会社もスマホにとって変わられるとは思っていなかったでしょう。この先、何が起こるか読めないようなときには、多様な人材や知識、アイデアと革新性が必要になってきます。
 しかも、これから人口も減り日本は縮小経済になる。外国に目を向け、今まで縁のなかった国とも付き合わないといけない。いろいろな意味で職場や世界が多様化する現実は、誰にも止められません。それに対応するかどうかは企業が選べるし、その結果は自分たちに返って来ます。
 社員も、男女や国籍の違いだけではなく、イクメンや年上の部下、ゆとり世代と多様化しています。バックグラウンドも価値観も違う人々をまとめ、企業の目標を達成するためのダイバーシティ・マネジメントの能力が、マネージャーに求められています。

<写真>河口

河口:
それはどういう能力でしょうか。

パク氏:
ファーストステップは、自分の固定概念や偏見に気づくことです。偏見や固定概念を持っていると、無意識に態度や行動に出てしまいます。マネジメントの場合は、与える仕事やフィードバックなどに出ます。偏見があると中立の立場に立てず、仕事ができると思える人に、より多くの情報やプラスの評価を与えてしまいがちになるのです。まず固定概念などの影響に気づき、自身の言動を変えていくのです。
 次に大切なのは、人間関係力です。ダイバーシティはとにかくチームワークが大切。社会の変化が激しくなり、情報量も無限大になっているときに、ベストパフォーマンスを出すためには、自分一人の知識や能力では解決できません。

河口:
企業の制度や仕組みによって、作り上げることもできませんね。

パク氏:
そうです。だから、企業は意識的に、社員とマネージャーの意識と行動を変える必要があります。
アメリカでダイバーシティが始まった頃、白人男性より有能なそれまで主流でなかった人たち(女性やマイノリティ)を採用しました。ところが、期待したようなパフォーマンスを出してもらえなかった。つい、周囲がそういう人たちに偏見を持った態度で接していたのでしょう。多くの経験や調査結果から、採用や昇進などの制度はとても大切ですが、同時にダイバーシティを尊重するように、マネージャーと社員の意識と行動を変えることも同レベルで重要なことを確認しました。多様な人材の持っている能力をフルに発揮させるためには、まずその人が尊重され、認められ、受け入れられていると感じることが前提条件だとわかったのです。

河口:
相手にとってよかれと思ってやっていることが、その人にとっては尊重されていないと感じられる場合もありますね。

パク氏:
そうですね。しかし、そこがダイバーシティの核なのです。加えて、ダイバーシティは能力主義です。これまで、性別や国籍、年齢で採用や昇進が決まっていたけれど、そういう属性を全く見ず、仕事に関わる能力だけを評価します。そうすると例えば仕事を与えるときに、配慮はしつつも「この仕事をこなすために、あなたにとってはどういうやり方がベストなのか」と聞く必要があります。フォーカスすべき事は必ずパフォーマンスです。例えば、時短勤務だから仕事はこのレベルでいいということではなく、「求められているパフォーマンスを出すためには、あなたは6時間でどう達成するの?」と聞くのです。画一的なやり方ではなく、フレキシブルに、そして仕事に支障のないやり方でどう対応するかが重要です。

河口:
それは理想論で、実際は難しいということになりませんか?

パク氏:
ダイバーシティは一度何かやったら浸透するものではないので、長期で取り組まないとだめですね。単に企業に多様な人材を増やすと、ダイバーシティのデメリットだけが出てしまい、かえって生産性やパフォーマンスを下げてしまいます。企業がダイバーシティのメリットを得て競争力を高めたければ、意識的に努力してダイバーシティに取り組むことが不可欠なのです。

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