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第43回:「グリーンエコノミーと持続可能な消費」 2012年7月25日

<写真>古沢氏

古沢 広祐氏
國學院大学経済学部(経済ネットワーキング学科)教授

1950年東京生まれ。大阪大学理学部生物学科卒業、京都大学大学院農学研究科(農林経済)修了、農学博士。
「リオ+20」には、政府代表団NGO顧問として参加する。主要著書は、『共存学:自然と文化の多様性』(共著、弘文堂、2012年)、『カーボン・レジーム:地球温暖化と国際攻防』(共著、株式会社オルタナ、2010年)、『地球文明ビジョン−環境が語る脱成長社会』(単著、日本放送出版協会、1995年)など。NGO活動として、(特活)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事、(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)理事、市民セクター政策機構理事などを務める。

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地球サミットから「リオ+20」へ

河口:
ブラジル・リオデジャネイロで6月20〜22日に「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」が開催されました。1992年の地球サミットのときは、希望に燃えている雰囲気があったと思いますが、それから20年後の今回、現場に行かれて、どのような印象をお持ちになりましたか。

古沢氏:
地球サミットのときは、従来の国家の枠組みを超えたグローバル市民社会として、南北問題なり地球環境問題なりに、人類が一丸となって取り組む気運になっていました。1989年に東西の冷戦構造が崩壊して、軍事費削減を財源に貧困や環境対策に振り向ける「平和の配当」への期待など、世界がドラスチックに変わっていく最中という時代背景もありました。
気候変動枠組条約と生物多様性条約という2つの国際条約の調印も開始され、アジェンダ21(21世紀行動計画)も定められて、これで新しい未来が始まるかもしれない、という雰囲気が生まれていました。NGOの存在が世界的に認知され、政府とともに、一緒に課題に取り組むきっかけになったのもこの地球サミットです。
10年後のヨハネスブルグ・サミットでは、まだ元気だったEUのリーダーシップもあり、実施計画が決まり、「持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言」が採択されました。
でも今回は、とくに国際条約や具体的な行動計画ができたわけでもなく、目標に向けた政治的合意文書が一応できただけです。しかもその中身は、ほとんどがこれまで積み上げてきたことの確認にとどまっています。20年前と比べると、10年ごとに明らかにトーンダウンしてしまいました。

河口:
それはどうしてでしょうか?

<写真>古沢氏

古沢氏:
冷戦終結後の経済のグローバリゼーションによって、私たちは恩恵を受けつつも、さまざまな矛盾も拡大しているという流れがあります。2008年のリーマンショックで明らかになったように、金融を含めた新しいグローバル経済の拡大とその矛盾が大きくなっていて、足下の経済が揺らぎ出して世界的に環境問題どころではない状況になってしまったのだと思います。
気候変動や生物多様性など、課題ごとには動いている部分もありますが、個別的な対応になってしまって、世界全体の大きな軸足としては、経済に関心が向いています。世界金融危機から先進諸国を中心に深刻化する財政危機など、その後始末だけできゅうきゅうとしてしまい「リオ+20」が盛り上がらない状況を象徴していました。

河口:
それに加えて、20年前とはプレイヤーの位置関係が違うのではないでしょうか。あのころは、先進国と途上国の関係がわかりやすかった。たとえて言えば壮年のお父さん役の先進国がいて、まだ小学生ぐらいの小さな子どもという途上国がいて、この子をどうにか成長させなければ、という話をしていた。でも特にここ10年ほどで形勢が逆転してきた。お父さんは老年にさしかかり体力が低下し、子どもは成人して力をつけたはずなのに、「僕たちはまだ子どもだ」と言っている。20年前の家族関係のまま議論しようとしても、それは無理ではないかと思います。

産業界では活発な議論も

河口:
金融が自然自体を重要な資本とみなそうという「自然資本」という概念を取り上げるなど、ビジネスセクターが意外と頑張っていたと聞きました。政府ではなく、ビジネス界が主役となって議論する方向に軸足が移っているのでしょうか。

古沢氏:
国自体の枠組みが機能しにくくなっています。京都議定書などのフレームワークでも、国家の傘の下ではなかなか話が進みません。企業活動は国の規模を超えて広がっていますし、さまざまな情報が世界で共有されているいま、国単位で経済を見る時代ではなくなっています。国際的な消費者運動や環境NGOの運動など、ある種の世論の圧力もあって、グローバル企業として世界に対する責任を自覚する企業も増えています。
CSRの情報開示については、その重要性が成果文書でも触れられました。企業が情報開示を競い合うことを評価に組み込むような国際的な目標を立て、何をいつまでに、という達成に向けた具体的な枠組みとプロセスまで示せれば良かったのですが、今後に期待しています。

河口:
金融機関のほうでも、環境社会ガバナンスに関する情報、いわゆるESG情報の開示を義務化すべきと提言し、そのように各国政府に働きかけました。投資家を動かすESG情報が整備されないと、企業も投資家も動きにくいですから。

古沢氏:
ESG情報開示などで頑張ったところがきちんと評価される基準にしないと、頑張っていないところが抜け駆けできるようでは困ります。「リオ+20」に参加した先進的な企業セクターの人たちは、そこはかなり意識しているわけです。だが、そうした状況を受けとめて、方向性は確認しつつも世界をリードしていく国の合意としては、残念ながらできませんでした。

河口:
国の影響力がなくなってしまったのですね。

古沢氏:
それもあるし、大きくは南北格差の問題を背景にして、とくに途上国側は経済発展の制約になることなどについては手足を縛られたくないという思いもあるのでしょう。国家の発展の足かせになりそうな取り決めには、まずは拒否という姿勢だったと思います。

<写真>河口

河口:
力関係は変わっているのに、依然として「先進国と途上国」という古い図式で語りたがる傾向にあます。グリーンエコノミー(*1)が実現したら、発展のあり方そのものが変わるわけで、「モノばかりではない方向にみんなで行こうよ」と言えたらいいのでしょうが、やっぱり途上国はまだモノが必要だし欲しい。グリーンエコノミーを唱えるのなら、物質は充分ある先進国が率先して、となるわけですね。

(*1)「リオ+20」では「持続可能な開発と貧困対策におけるグリーンエコノミー」が主題テーマの1つだった。

古沢氏:
ただ、1つおもしろかったのは、コロンビアなど中南米の中小国が「持続可能な開発目標(SDGs)」(*2)を積極的に提案し、合意文書に組み入れられたことです。一方、MDGs(ミレニアム開発目標)を重視したい途上国や、中国、インド、ブラジルなどの新興国は、経済発展の妨げになるのではないかと、どちらかと言えば警戒心のほうを強く表していましたが。

(*2)環境保全と貧困根絶などに関する新たな数値目標。2015年までに策定すると定められた。ポストMDGs(後述)と統合されるとの見方もあるが、両者の関係についても今後の議論が必要。

河口:
それはいい話ですね。

古沢氏:
BRICsほどの発展をしていない国から、これまでの経済発展パラダイムだけではまずいのではないか、という問い直しが出てきたのだと思います。

河口:
そうした点はもっと伝えられていいのではないでしょうか。国際政治のダイナミズムの中ではささやかかもしれませんが、「リオ+20」の1つの成果といえると思います。

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