


佐久間智子氏
アジア太平洋資料センター理事
これまで、環境・持続社会研究センター理事、市民フォーラム2001事務局長、開発教育協会理事などを歴任。経済のグローバル化の社会や開発影響に関する、調査・研究および発言を行なっている。近著に『穀物をめぐる大きな矛盾』(筑波書房 2010年) 、訳書に『ウォーター・ビジネス――世界の水資源・水道民営化・水処理技術・ボトルウォーターをめぐる壮絶なる戦い』(作品社 2008年)など。

河口:
水不足が世界的な問題となっています。水は人間にとって必要不可欠な物質ですから事態は深刻です。水問題を掘り下げると、環境問題と社会問題の両方が絡み合っているように思いますが。
佐久間氏:
おっしゃる通りです。まず環境の面からお話しますと、汚染や気候変動により、利用できる水資源の量が減少しています。
河口:
温暖化でヒマラヤの氷河が消失すると、ヒマラヤを水源とする河川が干上がり、7カ国が水不足に陥るという説があります。
日本でも積雪量が減少していますが、水資源への影響はあるのでしょうか。
佐久間氏:
あるでしょうね。春先の雪解け水は徐々に解け出すことで長期間土壌を潤し、灌漑農業(*1)や地下水の涵養(*2)に役立っていますから。
(*1)灌漑農業:人工的に水を土地に供給して行なう農業。用水路を利用した稲作や、スプリンクラーを利用した畑作など。
(*2)涵養:自然に水がしみこむように徐々に養い育てること。
河口:
なるほど。徐々にという点が、自然のダム機能を果たしているのですね。
佐久間氏:
同じように自然のダムである森林が破壊されていることも問題です。あわせて砂漠化や湖沼の破壊が進み、土地の保水機能が落ちている。そのため雲ができにくくなり、陸に降る雨が減少しています。
さらに都市化によって舗装が増え、雨水が地面に吸収されずに海へと流れ出ています。結果、海で発生する雲が増え、大切な資源となる雨が海に降り注いでしまっているのです。
河口:
海に戻ってしまった雨は、淡水として利用できません。これらは人為的な原因で引き起こされているのですね。

佐久間氏:
水不足のさらに大きな原因として、取水量の増加が挙げられます。
1900年から2000年にかけて世界の人口は約3倍に、取水量は7倍に増えました。灌漑農業の普及や経済活動の拡大によって、水需要が大幅に増えたのです。
河口:
水資源が減少しているのに使う量は増加している。需給バランスは悪化する一方ですね。現在、世界の人口は約68億人、2025年には80億人に達する見込みです。
佐久間氏:
今後、水はさらに希少な資源となり、食料危機にも拍車がかかるでしょう。
牛肉1キロを生産するには、浴槽100杯分の水(2万リットル)が必要だといわれています。牛の飼料となるとうもろこしや大豆の生産に、大量の水が使われているからです。
日本はこうした飼料や食料を輸入しています。つまり、水を輸入しているのと同じことですよね。輸入食料を国内で生産したと仮定した場合、必要とされる水のことを「バーチャルウォーター(仮想水)」と呼びます。
河口:
日本はバーチャルウォーターを輸入している分、国内の水を消費せずに済んでいるわけですね。裏返してみれば、渇水に苦しむオーストラリアや中国から食料を輸入し、環境負荷をかけている。
佐久間氏:
水問題の本質のひとつに、経済的に豊かな国が他国の水資源を移動させているという事実があります。
ただし、1人あたりの水資源量(*3)は、オーストラリアよりも日本の方が少ない。日本は人口密度が高い上に、山が多いせいで水が海に流出しやすいという問題も抱えています。
(*3)水資源量:日本の1人あたり水資源量は世界平均の2分の1で、世界156カ国中91位。(経済産業省 2008年版通商白書 第3章第4節より)
河口:
日本は水資源が豊かに見えますが、実はそうではないと。現に、西日本を中心に度々渇水が起きていますね。
佐久間氏:
少し話は変わりますが、河川や湖沼、地下水として、目に見える形で蓄えられている水のことを「ブルーウォーター」といいます。
そして、生産地(田畑や森林など)に降った雨水由来の水のことを「グリーンウォーター」といいます。草木の根や土壌に蓄えられ生産に使われているけれど目には見えない水分を、水資源としてカウントしようという概念です。
世界のグリーンウォーターの約6割がすでに生産活動に使われているそうです。
河口:
残された水は少ないということですね。
佐久間氏:
そうです。ただ、日本の農業水は余剰傾向にあるそうです。
諸外国から日本の稲作は水を大量に使うと非難されたこともありますが、それは違います。水田は稲刈り前に水を抜き、まわりの土壌を潤わせ、自然の水循環に一役買っているのです。