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第20回:「CSRとマイクロファイナンス」2009年10月9日

<写真>菅正広氏

菅 正広氏
前北海道大学公共政策大学院教授(現鉄道・運輸機構理事)
大蔵省入省。英国ケンブリッジ大学修士(MA)、相馬税務署長、国税庁・証券局課長補佐、主計局主査、OECD(経済協力開発機構)税制改革支援室長、財務省国際局・関税局課長、財務局部長、預金保険機構部長、大臣官房参事官、北海道大学公共政策大学院教授などを経て現職。『マイクロファイナンスのすすめ−貧困・格差を変えるビジネスモデル』(東洋経済新報社 2008年)、『マイクロファイナンス−貧困と闘う「驚異の金融」』(中公新書 2009年)など著書論文多数。

貧困は途上国だけの問題ではない。先進国にも存在する

<写真>菅氏

河口:
貧困はかつて途上国の問題だと思われていましたが、先進国でも社会問題になっています。日本も例外ではありません。労働問題や派遣切り、生活保護を打ち切られて生活が立ち行かないなど、人権を脅かす重要な問題として存在しています。
貧困を解決する方法のひとつとして、世界的に注目されているのがマイクロファイナンスです。関心をお持ちになったきっかけは?

菅氏:
これまでの仕事と個人的な経験の公私両面のきっかけがありました。
まず、仕事上のきっかけについては、大蔵省で雇用・社会保障関係予算の主査をして財政の面から社会福祉を考えるようになりました。その後、国内金融や国際金融の行政に携わって、金融の本質とは何か考えるようになりました。そのような財政と金融の交わるところにあったのがマイクロファイナンスでした。
「私」の面では、何年か前に親戚が廃業せざるを得なくなった経験をしました。その時、日本の社会システムはなんて弱者に優しくないんだろう、社会のきずなが失われているのではないかと実感しました。
その後、北海道大学公共政策大学院で教鞭を取る機会があってマイクロファイナンスの研究を深めました。マイクロファイナンスは研究すればするほど奥が深く、日本にもマイクロファイナンスが必要だと強く思うようになりました。ハードルは低くはありませんが、マイクロファイナンスの理念は日本の社会を変えることに繋がるのではないかとさえ思います。

河口:
ご自身の経験や思いから、マイクロファイナンスの必要性を感じられたのですね。

菅氏:
そうですね。貧困だけでなく環境保護や地域再生などの社会的課題にも通じることですが、国や企業に解決を求めるだけでなく、自分たちができることは自分たちでやり始めないと何も先に進まないとつくづく思います。
もちろん、深刻化する貧困に対して、公的セクターには社会福祉・社会保障などの政策を総動員して取組んでほしいと思います。民間セクターにも雇用や賃金の確保などやれることもあります。しかし、そのどちらにも限界があります。国でもなく企業でもない、「民が担う公共」という「第3の道」には大きな潜在力があると考えています。

河口:
公的機関、資本主義市場のどちらからも救済されない層をソーシャルビジネスが救うということですね。ちなみに、日本では成功例として、育英会(*1)の奨学金や市民銀行(*2)が挙げられるかと思います。いずれにも共通するのは、自立を促す仕組み。貧困解決に必要なのは援助ではなく、自立支援なのだと思います。

(*1)育英会:現 独立行政法人日本学生支援機構

(*2)市民銀行:市民やNPO、生活協同組合などが運営主体となり、預金ではなく、市民から小口の出資金を集めて融資を行なう。「市民バンク」「NPOバンク」とも呼ばれている。

マイクロファイナンスの高い返済率を支えているのは、人と人との信頼関係

<写真>河口

河口:
バングラデシュのグラミン銀行では、貸倒率が1〜2%だそうですね。金融業界から見ると驚異的な数字です。どうやって実現したのでしょうか。

菅氏:
グラミン銀行が「レモン問題」をどうやって解いたのかという問題です。「レモン」とは中身が腐っていても外からは見えない不良品のことですが、どうやって中身を見抜くのか、返済するつもりのない借り手をどうやって見抜くのか、貸し手の目利き能力が問われる問題ですね。
グラミン銀行では、融資申し込みの段階から銀行員が借り手のところに行き、家族や生活の様子などを見ながら、その人が誠実な人物なのか、事業に収益性はあるのか、どんな就労支援をすればいいのかなど借り手ときめ細かな信頼関係を築いていきます。仮に、現時点で担保や収入がなくても、将来、収入を生み出すことのできる人物や事業であればいいのです。

河口:
現在のステイタスではなく、将来に着目して融資する。発想としては、投資に近いですね。

菅氏:
そうですね。本来、ここに金融の醍醐味があるはずですよね。
マイクロファイナンスは、日本ではよく消費者金融と同じものではないかと見られますが、両者はまったく違うものです。消費者金融は企業利益を最大化するビジネスモデルです。貸したお金が貧困脱却に資するのかどうかはおよそ関心外のことです。現在収入のない母子家庭など貧困に苦しむ人々にはたとえ少額でもお金を貸しませんし、支払いが滞れば強制的な債権管理に移行しますよね。
他方、マイクロファイナンスは貧困を失くすことを一義的な目的とするものです。ビジネスの手法を使い、融資後も借り手の事業をフォローアップして借り手を支援します。むしろ、こうすることで事業に失敗して返済できないというような状況を未然に防止することができます。きめ細かい信頼関係ができれば、借り手に「この人は裏切れない」という気持ちも芽生えます。
また、グラミン銀行のグループローンは5人1組で1人が返済を終えないと次の人が融資されない仕組みですが、これも「情報の非対称性」(*3)を埋めることに役立っています。お互いにきちんと返済できる人を仲間に選びますから。仲間を裏切れないという気持ちやピアプレッシャー(仲間同士の圧力)が見えない担保になります。

(*3)情報の非対称性:貸し手と借り手が持つ情報量に格差があること。本当に返済する気があるかどうかは、借り手にとっては内面の意志として既知の情報であるが、貸し手には未知の情報となる。

河口:
信頼関係をベースにした一連の仕組みが、情報の非対称性を埋めて、モラルハザード(たとえば、自己破産すればよいとして返済しないなど)を未然に防ぐことにつながっているのですね。

菅氏:
そうです。高い返済率を支えているのは、人と人との信頼関係なのです。

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