


末吉竹二郎氏
国連環境計画イニシアティブ(UNEP FI)
アジア・太平洋区特別顧問
1972年にストックホルム国連人間環境会議で採択された「人間環境宣言」および「環境国際行動計画」の実行機関として設立された国連環境計画と世界各国の金融機関の自主協定によって発足した任意団体。金融機関のさまざまな業務において、環境および持続可能性(サスティナビリティ)に配慮したもっとも望ましい事業のあり方を追求し、これを普及、促進することを目的として活動している。

河口:
気候変動問題への取組みについて日本と外国を比べると、どうも日本人の感度が鈍いように感じるのですが、末吉さんはどう感じていらっしゃいますか?
末吉氏:
私が今感じている危機感は2つあります。ひとつは、とどまるところを知らない地球温暖化による被害の広まりへの危機感です。そしてもうひとつが、河口さんがおっしゃるように、海外と比べて日本には「危機感がない」という危機感です。
誰もが「暑いねえ、これって地球温暖化の影響ですかね?」と気軽に口にするほど「地球温暖化」の言葉は知られているのに、それが世界各地でどのような被害をもたらしているかを知ろうとしたり、自分で何かを変えようとしたりするアクションにつながっていないのです。
河口:
日本は比較的気候が安定しているので危機感が稀薄なのでしょうか?
末吉氏:
たしかに日本は気候に恵まれてはいますが、2006年の九州北部での大洪水などは、10日間で1200mmの降水量でした。全国の平均年間降水量が1700mmですから、いかに集中的に雨が降ったかがわかります。そうしたことも含めて、実は情報はたくさんあるのに、一般の人にはあまり知られていないのです。
さらに、日本のビジネス界・政界のリーダーたちの反応がすこぶる悪いことも危惧しています。欧米各国でこれだけ政治的な動きが大きくなったり、地球温暖化を世界経済の観点から分析している「スターン・レポート」で気候変動問題が大きく取り上げられたりしているにもかかわらずです。
河口:
一部の専門家の間にしか、問題意識が浸透していないということですね。
末吉氏:
お年寄りから赤ちゃんまで、すべての国民が意識するような社会運動にしていかなければならない大問題ですから、ビジネス界や政界のリーダーたちが何をすべきかをもっと考え、具体的な行動に移していくべきです。
河口:
リーダーシップにあたってどんなことが求められますか?
末吉氏:
たとえば、2002年のヨハネスブルグのサミットで、ヨーロッパの企業のCEOたちのスピーチで感心したのは、彼らが個人としてもコミットメントして、人柄や考え方をストレートに出していたことです。ゴア氏も『不都合な真実』で、自分の子どもの命が救われるかどうかの瀬戸際で人生観が変わったことなどを語っていますよね。日本でも、社長や政治家が自らの言葉で社会問題や環境問題について発言する風潮が高まってくることを期待しています。

河口:
日本と外国の政策的な違いはどこにありますか?
末吉氏:
EUは、ずいぶん前から確信的に取り組んできています。アメリカはブッシュ政権が京都議定書から離脱したので、日本よりも遅れているという見方をする人が多いですが、実際は、日本よりずっと前をすすんでいます。たとえば、連邦議会では環境関連の12本の規制法案が提出されていますが、日本の国会では法案はゼロで、議論もされていません。シアトル市のように「国がやらないなら市でやる」と、大きなCO2削減目標をうち立てたところもありますし、30以上の州が訴訟や規則の強化などにより急速に変革を進めています。
河口:
それと比べると、日本は「省エネ効率がいい」とか「世界一の技術力があるからどうにかなる」という考え方に安住してしまっているように見えます。
末吉氏:
日本は、風力発電では世界で13位、太陽光発電はかつて1位でしたがドイツに抜かれて今は2位です。高をくくっているとどんどん抜かされますし、そもそも技術は問題解決の「ピース=部分」でしかありません。国全体でどうやって動くかという全体のビジョンが重要なのです。
河口:
イギリスでは家の売買に「省エネ証明書」が必要だったり、燃費の悪い車はパーキング代が高かったり、対策が制度にしっかりと組み込まれているのに、日本では、レジ袋の有料化だけでもすんなりと実現できていませんね。
末吉氏:
フィリップスという電気製品メーカーは、白熱灯の製造をやめることを決めましたし、イギリスのテスコというスーパーは、蛍光灯の値段を半額にすることを決めました。蛍光灯は白熱灯よりエネルギー効率が10倍よく、耐用年数は5倍。あきらかに環境負荷の観点で蛍光灯のほうが優れていますが、これまで価格が10倍だったので、白熱灯を買う人が圧倒的に多かったのです。これは米国のウォールマートの例ですが、年間1億個の白熱灯が蛍光灯に代われば、電力消費量が電気代換算で30億ドル軽減されます。これを「浮いたお金はまた消費に回ってくるはずだから損にはならない」という大きな視野で実行しているのです。この動きは世界に広まり、豪州やカナダでも白熱電球の使用禁止を決めました。ビジネスと環境対策を重ねて、自分たちで歯車を回していこうとする試みは高く評価できます。