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第1回「まず、CSRを知ること」

サステナ博士イラスト
大和環境研究所
サステナ博士

「企業の社会的責任」や「企業の社会に対する責任」と訳されているCSR(Corporate Social Responsibility)だが、責任という言葉が持つ義務や責務というニュアンスから、「また新しい仕事が増える」「コストがかかる」といった企業の反応が多い。また「創業当時から当たり前にやってきているから特に何も新しいことをするつもりはない」という意見もある。もちろん、CSRというものを深く理解した上で、日常的な企業活動に織り込まれているのであれば、それに越したことはない。しかし、この考え方に対する認識が足りずに誤解するとたいへんである。

CSRという動きは今後、企業の存続に対してより厳しい要求を突きつけてくる可能性がある。「その重要性に気づく頃にはすでに勝敗は決まっている」ともいわれる。言い換えれば、環境問題対策と似た性質を持っているともいえるし、環境問題対策そのものもCSRの一部と考えられている。CSRを良く知ること。その上で、これをどう捉えるか。この連載では、CSRが「コスト」や「業務負担の増加」ではなく、実は企業をより強くするための武器になりうることを紹介していきたい。

不信、不透明な時代だからこそ・・・

そもそも、企業というものは社会の一部であり、社会に役立つことによってのみ成り立つ存在だ。あなたの会社の理念や綱領にもそう書かれているのではないだろうか。

その根底には当然、社会と企業との信頼という絆を前提としているはずだ。しかし、今やそこに大きなギャップがあるように感じる。全ての企業人は同時に社会における生活者であるが、企業人としての視点と生活者としての視点は同じレベルにあるだろうか。自分の勤めている会社を一人の生活者として信頼できない人も少なくないかもしれない。もはや売上高や従業員数などの企業規模が信頼の指標になり得ないことは誰もが知っている。企業不信の表現として「顔が見えない」という言葉も多く見かける。果たして企業はどうすれば信頼を得られるのか。

CSRの日本語訳

「CSRの訳を企業の社会的“信頼度”と訳してみてはどうか」と提案するのはサステナビリティ日本フォーラム代表理事の後藤敏彦氏。たしかに Responsibility には、信頼や信頼性といった意味がある。“責任”という言葉からは「責任を果たすか、果たさないか」という2つの状態のみが連想されるが、“信頼度”はアナログで連続性のある状態がイメージできる。連載が進むにつれ明らかになるはずだが、CSRは「これこれをやっていればOK」という規制遵守的でデジタルな○か×かではなく、他と比較してより高いか低いかといった比較可能なものと捉えるべきである。後藤氏の提案はCSRの本質に迫るものといえる。本稿では、便宜上“CSR”という表記を用いるが、“企業の社会的信頼度”と読み替えていただければと思う。

CSRとは何であって、何でないのか

「CSRとは何か」を考える前に「CSRとは何でないのか」を議論してみたい。(社)経済同友会が2003年3月にまとめた『「市場の進化」と社会的責任経営』という企業白書がある。CSRについて非常に良くまとまっており、A4で220ページを超える冊子だが、PDFで無償配布している。ぜひ入手すべき参考文献である(連絡先などは後述の「読んでおきたい参考文献」参照)。同白書に「わが国における典型的考え方」としてあがっている3点をまず見て欲しい。あなたの考えはいずれかに当てはまっていないだろうか。

  1. CSRとは、社会に経済的価値を提供することである。
  2. CSRとは、利益を社会に還元し、社会貢献することである。
  3. CSRとは、企業不祥事を防ぐための取り組みである。

((社)経済同友会『「市場の進化」と社会的責任経営』P.7より引用)

同白書は以上3点を「いずれもCSRの一部であるが、その本質を表していない」と断じている。つまり、1は「企業の持つ経済的責任を主(社会的責任を従)」と考え、2は「CSRをコスト、フィランソロピー」と考え、3は「CSRを義務的取り組み、法令遵守」と考えているがいずれもではないということである。確かに上記のような考え方をしている企業人は多い。「今は不況で余裕がないからCSRなんてできない」という言葉も良く聞く。私自身、新聞雑誌などで言葉だけを知っていた時期は同じようなイメージを持っていた。しかしそうではないのだ。既成概念にとらわれず、一旦取り払ったところからCSRに向き合っていただきたい。

では、いったいCSRとは何か。

同白書はその答として「CSRの本質」3点をあげている。

CSRは企業と社会の持続的な相乗発展に資する。

CSRは、社会の持続可能な発展とともに、企業の持続的な価値創造や競争力向上にも結び付く。その意味で、企業活動の経済的側面と社会・人間的側面は「主」と「従」の関係ではなく、両社は一体のものとして考えられている。

CSRは事業の中核に位置付けるべき「投資」である。

CSRは、事業の中核に位置付けるべき取り組みであり、企業の持続的発展に向けた「投資」である。

CSRは自主的取り組みである。

CSRは、コンプライアンス(法令・倫理等遵守)以上の自主的な取り組みである。

((社)経済同友会『「市場の進化」と社会的責任経営』P.7より引用)

また、麗澤大学の高巌教授らによる『企業の社会的責任』(日本規格協会)には、「CSRとは、企業が、市民、地域、及び、社会を利するような形で、経済上、環境上、社会上の問題に取り組む場合のバランスのとれたアプローチということができよう(P.10)」とある。

これだけの説明では「具体的に何をすればよいのか?」という質問が出そうである。しかし、よく考えると人間関係においても信頼を得るためにどうすれば良いのかというのは簡単に答えられるものではない。日常的な生活の中での他人との関わりから信頼は生まれてくるはず。具体的な何かをしたからといって必ず信頼が得られるとも限らない。高教授も「CSRとは実際に何を指すのか、何に対応しなければならないのかという具体的な定義は、ほとんど不可能であると考えている。なぜならばCSRは、社会または市場との関係においてその内容が決まってくるものだからである。(『企業の社会的責任』P.11)」と書いている。

CSRの難しさと面白さ

このようにCSRは、これまで企業が進めてきた環境問題と比べて具体的な課題がわかりにくいという特徴がある。そのため、どうしても人によって考え方に違いが出てくる。信頼を得るべき相手である“社会”には様々な立場があるがそのすべてに対応しようとすると、矛盾が生じてくる場合もある。ある人にとって都合が良いことが別の人にとって不都合であることは良くあることだ。それらをバランス良くそしてケースバイケースで考える必要がある。高度なバランス感覚と判断力・決断力を要するのだ。これはCSRの難しさともいえるが、逆に言えば面白さでもある。どこを探しても答のないこと、他人にとって最良の判断が自分にとってはそうではないことをまず認識して欲しい。難題を解くためのキーワードは、社会との対話である。ステークホルダーとの継続的で密度の高いコミュニケーションによってのみ何をすべきかという答が得られ、また、その対話の過程そのものが信頼度の向上につながる。つまりCSRそのものと捉えられる。

次回以降の連載で、CSRを取り巻く状況について詳しく紹介し、CSRが企業とともに社会をも変えていく考え方であることを示したい。CSRに興味を持った読者はぜひ、後述の参考文献を取り寄せてみて欲しい。

読んでおきたいおすすめ文献

企業の社会的責任

企業の社会的責任
発行:日本規格協会
編著:高巌、辻義信、Scott T. Davis、瀬尾隆史、久保田政一
価格:1,300円
発行日:2003年4月21日
その名もずばり『企業の社会的責任』。この分野に興味があるならばまず手に取るべき文献であろう。特に企業倫理の専門家として著名な高巌・麗澤大学教授による第1章「企業の社会的責任(CSR)と企業の役割」はCSRの要点を誤解なく知る上でバイブルといっても良い内容。気が付くとアンダーラインや付箋でいっぱいになってしまう好著だ。

「市場の進化」と社会的責任経営

「市場の進化」と社会的責任経営
発行:社団法人 経済同友会
発行年月:2003年3月
PDFにて無料ダウンロード
企業の変化だけではなく、市場そのものを進化させるというコンセプトでCSRを捉えている。企業と社会との相互作用に着目し言及しているので社会が変わっていくというダイナミズムを感じることができる。経営層にぜひ読んでもらいたい。
A4版で200ページを超えるが、無料でPDFダウンロード配布している。
入手方法は経済同友会のサイトから「企業白書」へ。

CSRと持続可能性報告

CSRと持続可能性報告
発行:環境報告書ネットワーク
発行年月:2003年9月
価格:2,500円(送料込み)
問い合わせは、環境報告書ネットワーク事務局へ。
TEL:03-3592-9735
FAX:03-3592-9737
約200もの企業、組織、団体、学識者が参加して環境報告書の普及と質の向上、環境コミュニケーションの発展のために設立された環境報告書ネットワーク。そのなかで行われた研究会活動のまとめとして発行された報告書である。持続可能性報告書や担当者へのアンケートの分析などからなる。企業名も公表されているので実際の企業がどのような考えで活動しているのかその実態がわかる。実務者向けの好資料。
詳細はこちら

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