



大和環境研究所
サステナ博士
これまで5回に渡って企業を取り巻くCSRという考え方について書いてきた。特にSRIという投資概念は市場メカニズムに則った形で世界中の企業の社会的責任を問いただす大きな動きになっている。
そこで、最終回はもう一度原点に戻りCSRというものをどう捉えてこれからの企業のあり方を考えるべきなのかを述べたい。
もともとすべての企業はその仕事が社会から必要とされているからこそ存在できている。社会の役に立っているからこそ報酬として利益が生まれる。また、企業は人・物・カネを社会から預かりそれを有効に活用することで社会全体を豊かにするという考え方もできる。これは「企業は社会の公器」と表現される。いずれにせよ企業は社会の一部であり、社会から離れては存在できない。どのような企業であれ存在する以上、社会全体に対して日々影響を与え続けている。そして、社会にどのような影響を与えようとしているのかがその企業独自の存在意義であり、その根本には企業理念があるはずだ。
しかし、その企業理念を実現しようとする過程において、地球環境や社会への悪影響が表面化してきた。商品やサービスを安く提供することは社会のためになるが、そのためには原価を下げる必要がある。そこで安価な素材を手に入れようとやむを得ず自然環境を破壊したり児童を労働力として雇うことに目をつむったりする。本来社会のためにやっているはずだったのに、結果として地球環境を傷つけてしまったり社会を不安定化させてしまったりという矛盾が生じてきた。
CSRとは企業の社会的信頼度つまり「企業が社会のためになることを為すことによって社会から得られる信頼の度合い」である。信頼を得るためにもっとも重要なことは対話を重ねることだ。例えば「女性役員の割合」を開示しさえすれば良いではなく「そのような情報を必要としている人に適切に届ける」ことが信頼を生む。新たに他の情報が必要になったとき、その企業はそれを届けてくれると期待ができるからだ。そのためにはステークホルダーと対話を重ねる以外に方法はない。最終的な開示項目が同じであってもそれまでのプロセスが異なれば信頼度に大きく影響することを理解しておきたい。
自分たちが目指している姿を明確にすることも大切だ。「地球温暖化防止のために最終的にこういう会社になる」というビジョンを掲げその中間目標として「2010年にCO2排出量を1990年度比6%削減する」ということと、「京都議定書で決まった国の目標だから6%削減する」というのでは同じ活動をしていてもまったく信頼度が違ってくる。後者は「もし議定書が3%で決着していれば3%の目標しか立てなかった」と判断される。
持続可能な社会がどのような社会であるのかは様々な議論がある。しかし、社会が滅びてしまう前にそこへ到達しなければならないことには誰もが同意するはずだ。持続可能な社会が実現されなければ、もちろん企業も存続できない。今、企業には持続可能な社会を実現するために何ができるのかが問われている。
ここで疑問が生まれる。持続可能な社会の実現の努力は企業だけのものなのか。信頼を得なくてはいけないのは企業だけなのか。パートナーである市民は社会問題や環境問題へ無関心であって良いのか。
2004年1月16日、「環境報告書シンポジウム〜CSRと信頼性確保〜」の基調講演で東京大学国際・産学共同研究センター山本良一教授は「CSRはふたつある」と述べている。ひとつはCorporate Social Responsibilityだが、もうひとつはConsumer Social Responsibility、つまり消費者の社会的責任である。これをさらに広げて「C」をCitizen(市民)と捉えることもできるだろう。社会のすべて人がそれぞれの立場で社会的責任を果たし共にゴールを目指す。これが持続可能な社会とCSRとの関係である。
持続可能な社会は現状から見るととても遠い目標で、例えれば遙か雲の上にそびえる高く険しい山である。その山頂への道のりは極めて困難なものになるだろう。だからこそ社会は信頼のおける企業でなければ共に歩んでいこうとは思わない。不都合なことを隠そうとするような企業はチームから外されてしまう。しかし逆に、市民を適切に先導し力強くリーダーシップを取る企業は信頼と支持を得る。社会と対話し社会を動かそうとする企業は社会からの報酬を得るのだ。CSRはまさに企業のブランド価値(=企業への信頼度)と直結しているのである。

さて、あなたが企業のCSR担当者なら、どうしても「ではCSRを推進するために具体的に何をしていけばよいのか」という疑問が残ると思う。残念ながらその答は信頼というものの性質上それぞれが独自に見つけださなければならない。しかしそのための考え方の方向性はこれまでの議論から立てられる。それは「持続可能な社会を目指し、世の中の役に立つことをビジョンとして明確に示して、社会との対話を重ねながら共に歩むこと」である。
その際、基礎となるものはまず第一に「企業理念」である。そして、理念という背骨にこれまでに培ってきた人材や技術・ノウハウを肉付けしビジョンを描いていく。また、企業活動全体が矛盾無く社会の役に立っていることを常に確認し続けることも必要だ。そのための体制を整え情報システムを作ること。それらを進めるなかで「やるべきこととやめるべきこと」がはっきりしてくる。CSRを通して企業の存在意義そのものが確立できるはずだ。「競合他社はどんな風にやっているのか?」「先進的な事例はどこか?」を熱心に調べるのも良いが「お手本は無い」と割り切ってしまった方が近道かもしれない。
今、CSRに社会の注目が集まっている。これまでなら多くの投資家に単なるコスト要因と判断されたかもしれない活動が中長期的なプラス材料として買われる可能性が高い。ぜひ20年後や50年後の姿を思い浮かべそこから振り返って今やるべきことを見つけだして欲しい。CSRはあなたの会社の未来にとどまらず世界の未来をも描くことができるとてもやりがいのある仕事になるはずである。